アウトサイダー・ロマンス

「お前ら3人で探偵稼業でも始めたらどうだ」

羽沢組の若い子たちが部屋の中の薬やタツヤくんを連れて行ってしまったので、急にがらんとしてしまった部屋の中で齋藤くんが呆れ半分賞賛半分の言葉をくれた。運が良かったのと相手がお馬鹿さんだっただけよと謙遜しつつもポケットから煙草を出し咥えた。1本いる?と齋藤くんに差し出すと彼は眉を顰める。

「ゴールデンバット、そんなの吸ってたか?」
「ん、ええ?貰い煙草だけど・・・」

貰い煙草というか、奪い煙草というか。
いらないならいいよ、と箱をしまって火をつけた。久しぶりに吸ったらこんな味だったか?と思いつつクセになってあのバーからとってきてしまったのだ。
しかし齋藤くんはひくりと鼻を動かすとわたしの煙草を叩き落とした。さすがに驚く。

「な、なにするの!」

ちょっぴりかちんときて、つい片手を振り上げてしまった。しかしその手はいつの間にか近づいていたタカシに絡め取られる。

「アサヒ、おまえ今日ちょっとおかしくないか?」

そんなことないよ!抵抗して暴れようとすればそのまま後ろから抱きしめられるように拘束される。齋藤くんが煙草を拾い上げてそれを確認した。

「これ中身バットじゃねえな。知らなかったか、相原ちゃん。いまのゴールデンバットってフィルター付なんだぞ」

えっ。愕然とした、じゃあわたしはいったいなにを吸っていたんだ。
そうしている隙にマコトがわたしのバッグからゴールデンバットを取り上げて齋藤くんに渡した。それから「あいつ、おれを拘束したあとベラベラ喋ってたよ」と涼しい顔で種明かしをし始める。要約するとこうだ。
喫茶店で話した話は半分嘘で半分本当らしい。タツヤくんはわたしがいま吸った煙草よりさらにきついものを吸わされたのではなくて、自ら吸ったのだと。
凶暴性を増す成分が含まれた薬物を彼らは自分たちで調合して喧嘩のドーピング材と称してアンダーグラウンドで売りさばこうとしていたらしい。その実験をしていたのだ。
わたしの吸っていたやつは理性はギリギリ残るが怒りっぽく、手を出しやすくなる配合だったようだ。ミチヒロが個人で嗜んでいたものなのだから、当然だ。

「お前がボトルで人を殴ってけろりとしてるから驚いたんだが、そういう事だったんだな」
「大方、あいつらはマコトとタカシに薬をやらせて潰し合いさせるのが目的だったんだろうよ。マコトは悪党にとっちゃ目障りだろうし、それにタカシも倒せるドーピング作用があると分かればあのヤクを欲しがるやつらは後を立たないだろうよ」

齋藤くんの推理でそう話は締めくくられた。なんだか力が抜ける。それを悟ったタカシがようやく拘束をといた。
そのままわたしのバッグからウイスキーボトルとアークロイヤルを抜き去る。

「なんだか合点が言ったな。で、だ。アサヒ、お前は明日は1日家にいて薬抜けよ。もちろん禁酒禁煙だ。安心しろ、おれが見張っててやる」

そんなあ、お酒はいいじゃん。そう言ったか細い声は災難だったなあ、アサヒ!と笑うマコトと齋藤くんの笑い声にかき消された。
ああ、絶対に怒ってるんだ、八つ当たりだ。タカシに内緒で潜入調査をして危険な目にあって怒られるのはまだ自業自得だと理解出来る。でもきっと、あの熱烈な告白がマコトとタツヤくんに邪魔されたイライラによる腹いせも少し含まれている気がした。
そうだ、しかもあんな熱烈な告白をされたあとなのに丸一日タカシと素面で一緒だなんて、あんまりだ!心臓が持たない!
ざわざわする胸を落ち着きたくて、せめて最後の一本をとここにいる三人の男たちにねだったが、こりないやつめ、と無視された可哀想なわたしなのだった。


/ 次
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -