アウトサイダー・ロマンス

男も胸ポケットから煙草を取り出した。ゴールデンバット。あれ、手巻き煙草じゃない。人違いだとしたら面倒くさいなあと今更ながら思った。

「色々吸ったけど、これが一番おいしくて」

しかしまあ合っているだろうと適当に考えてそのまま愛想良く会話を続ける。
ベッドを共にした男にもらい煙草をして覚えた煙の味。メビウス、セブンスター、echo。甘いのが好きなの、そう言ったわたしにこの煙草を教えたのは誰だったかな。
黒歴史とも言える過去の男たちの記憶をまた脳内の奥底にしまい込んだ。あまり思い出したくない。
それから少しずつたわいもない雑談を重ねて3杯目のグラスを空けた。ターゲットは石川倫弘と名乗った。本名かどうかは知らない。そしてそろそろ核心に近づこうと用意していた言葉を口にする。

「お兄さんは、ゴールデンバットしか吸ったことないんですか?」
「そんなことない。色々吸いますよ、パイプとか手巻き煙草もね」

いいぞ、素敵な趣味ですねと口許に手を当ててにっこりと微笑みつつもその手の下の顔は歓喜に歪んだ。
ここでターゲットの家に上がり込んで葉っぱでも抑えればこの事件は早めにカタがつくかも。キングもマコトも出る幕なかったな、ふふふ。
そう思った矢先の出来事だった。また背後でドアが開く音がして、少しした後に真っ直ぐとなんだか知っている気がする足音が近づいてくる。嫌な予感がした。いやまさか、まさかな。
しかし嫌な予感に限っては的中するのだ。他の席はいくらでも空いているのにその足音の主はよりによってわたしの横で止まった。
顔がひきつる。気になるが、怖くて振り向けなかった。だが確認するまでもなく、酒を注文する男の氷の刃みたいな声がわたしの身体を貫いた。

「ジャックダニエル、ロックで」

手の中の煙草の箱が少し潰れてくしゃりとフィルムが悲鳴をあげる。どうしてここに彼が、いや、心当たりがあった。この人わたしのことをクローンスマホだとか小型GPSだとか訴えたら勝てるんじゃないかというレベルで監視しているのを忘れていたのだ。せめてスマートフォンの電源くらい切っておけばよかった。
ミチヒロはなぜかわたしの隣に座ったタカシに不快そうな視線を送っていたがこの男のことは一切気にしませんという態度でにっこり微笑みかけると気をよくしたように手元のヘネシーを舐めた。
タカシはタカシで、すでに横にいるだけで邪魔なのだがそれ以上は邪魔する気はないとでも言うように大人しく出されたウイスキーを静かに飲んでいた。邪魔しないでよ、と届くはずもないが彼の頭に直接話しかけるくらいしかわたしには出来なかった。


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