アウトサイダー・ロマンス

重い木の扉を開けて店内に入る。そこはよくある雰囲気のバーだった。
カウンターの中のマスターがこちらを確認し、わたしが席に座るのを見届けるといらっしゃいませと静かな声で告げてメニューをくれる。
その中から適当に目に付いたダンヒルのオールドマスターをロックで注文した。
それからバッグから買ってきたばかりのアークロイヤルをカウンターに取りだす。甘いバニラ。フィルムを剥いて香る匂いに目を細めた。
そのうちに、マスターが灰皿のロックグラスを出してくれたのでまずはそれを口に含んだ。そしてとりあえずはマスターからあの日の話を聞こうかなとどう話を切り出すかと悩みはじめた。その時だ。ぎ、と入り口の扉が開く気配がする。そのまま足音が迷いなく近づいてきて他にも空いている席があるにも関わらず男が私の横に座った。
ああ、ナンパかな。面倒くさい。女の一人飲みはこれがやっかいなのだ。そううんざりして煙草を取り出しながら横目で男を伺った。
しかし、だ。その男を見てどきりとする。タツヤくんが話したあの男の外見と合致していたのだ。先程とは打って変わって心中小躍りをした。下見のつもりの内偵でこんなに上手くいくとは思いもしなかった。
ナンパ待ちの暇な女のふりをして、ゆっくりな動作でライターを探す。銀色に輝くそれはバッグの内ポケットに入っていることなんて知っているが、気がつかないふりをしてゆっくりと隣を見上げなから男に訊いた。

「すみません、ライター貸していただけませんか?」

そしてターゲットはやや驚いたように無言で頷くと、ワイシャツの胸ポケットから薄いブックマッチを取り出す。そしてそれに火をつけるとそっと差し出してきた。その火でゆっくりと煙草に火をつけて深く息を吐き出す。

「ありがとうございます」

それからにこりと微笑みかけた。しかし必死で作った涼しい顔とは裏腹に、背中には冷や汗が伝う。これで落ちなかったらどうしようかと思った。
わたしはとびきりの美人じゃない。ただヤれそうな馬鹿っぽい女を演じて男を引っ掛けるのが得意なだけ。
けれど男と話すきっかけとしては充分だったようで、ねちっこそうな声で期待していた言葉を吐いてくれた。

「珍しい煙草を吸っていますね」


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