アウトサイダー・ロマンス

タツヤくんとはあれからもう少しだけ詳しく話したあと、喫茶店を出た。なんとなく別れる時間には早い気がすると飲みに行く空気になっていた。しかしわたしはマコトたちに西一番街の看板の手前で別れの挨拶を告げる。

「このあと仕事なのか?」
「ううん、今日いっぱい休みだけど」
「それじゃあお前も来ればいいのに」

マコトが手頃な大衆居酒屋の看板を指さした。くだらない話に花を咲かせて飲む安いビールはおいしい。酷く魅力的なお誘いだったけれどわたしは笑って首を振った。

「ごめんね、坊や。わたし忙しいのよ」
「ったく、なんだよその断り方。もう絶対に誘ってやんないからな」

するとつまらなさそうな顔でマコトはわたしを見つめた。変わんないな、と思って思わず吹き出すとやつもつられて吹き出して頭をがしがしと掻き回された。

「じゃあな、アサヒ」
「バイバイ、マコト。タツヤくん、飲みすぎてマコトにとって食われないように気をつけて」
「適当な事言ってんじゃないぞ」

そのまま笑顔でわたしたちは別れた。マコトの頼もしい広い背中とタツヤくんの頼りない小さな背中が西一番街の人混みの中に紛れて消えていく。それが見えなくなるまで見送ると、わたしは駅ビルの方へと歩みを進めた。マノロ・ブラニクの8センチヒールが汚れた石畳を叩く。秋の夕暮れの生ぬるい風が頬を撫でた。
薄暗い空はベルベットのように重たい曇天。この街に一番似合う色だと思う。そう思いつつも、濡れたくはないので今にも降り出しそうな空の下を足早に通り過ぎた。


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