アオハル日常譚

いつも放課後は友人たちと夜遅くまで遊んでから家に帰っていたが、その日はたまたままっすぐ家に帰ってきてしまった。
そんなおれを捕まえたおふくろは、店の名前が入ったエプロンを押し付けて用事があるのだとどこかへ出かけてしまった。
おれは不貞腐れながら店番の椅子に座り、ぼんやりと古いブラウン管テレビを眺める。つまらない夕方のニュース。どこか遠くの殺人事件、交通事故。外国の政治家がなんとかかんとか。それらに見飽きてしまい、ふと店の外に視線を移すとこちらを見つめる女子高生と目が合った。
紺色のプリーツスカートから伸びる白い生足。着崩したブレザー。うちの高校の制服。つんとすました顔。隣の電気屋の一人娘、相原 旭。
小さい頃はお互いの家を行き来していたものの歳を重ねるにつれて疎遠になってしまった。しかし目が合ってしまった手前、なんとなく挨拶しないといけない気がしてなにか声をかけようとしつつ口を開きながら片手をあげる。しかしあいつはふんっ、と言わんばかりに顔を逸らしながらスタスタと自分の家へと入っていった。
か、かわいくねー!ぷつんと来てしまったおれは、暇な店番をほっぽり出しどかどかと階段を駆け上がり自室へと向かう。そしてもう何年も閉めっぱなしになっていた部屋の窓を力いっぱい開け放った。そしてそのもう1枚奥にあった窓も開ける。鍵はかかっていなかった。

「おい!アサヒ!」

怒鳴り込むと同時に、アサヒが自室へと入ってきた。目を丸くしておれを見てその瞬間眉を釣り上げて般若のように怒る。

「普通女の部屋に無断で入る?サイテー!出て行って!」
「お前が無視するからだろ!会釈くらいしろよかわいくねえな!」
「かわいくなくて結構!」

アサヒに突き飛ばされるように部屋を押し出された。昔はアサヒの方が無断でおれの部屋に上がって本を読んだりCDを持っていったりしていたくせに。そのことをちくちく指摘すると真っ赤になってすぐ側にあったボックスティッシュを投げつけてきた。

「ホント男ってガキ!昔の話持ち出して!」
「ガキはどっちだよ!」

受け止めたボックスティッシュを投げ返す。アサヒがそんなんだからモテないとかナンパがヘタだとかどこで仕入れたのか分からない悪口を言いながらまた投げてくる。

「うるせー!お前なんて・・・」

安い値段で売春してるって噂流れるくらいビッチなくせに!そう言い返しながらボックスティッシュをまた投げようとした時だ。ガシッと手首を掴まれてティッシュボックスを取り上げられた。そして目にも止まらぬ早さで取り上げられたそれで殴られる。

「ってぇな!」
「店番してろって言ったろ!マコト!」

振り向くと怒ったアサヒがハムスターに見えるぐらいにカンカンに怒ったおふくろが立っていた。すっかり忘れていた。
店に戻れと怒られて、すごすごと部屋を出ていくときに視界の端におふくろとなにやら話すアサヒの姿が見えた。随分と変わってしまった。あいつもおれも。



夜、風呂上がりにガシガシと髪を拭きながら部屋に戻ると窓が空いていた。もちろん向こうの部屋の窓も空いていて居心地が悪そうにサッシに座るアサヒがいた。

「・・・なんだよ」
「ティッシュ返して」

バツが悪くて不機嫌を装って話しかけると、アサヒのやつもバツが悪そうにおれの部屋の隅に転がっていた潰れかけのボックスティッシュを指さして言った。こんな潰れかけたの返してもらってどうするよ。
適当に話しかけるきっかけを作ろうとしたらしいアサヒに苦笑しながらおれの部屋にもともとあった綺麗なボックスティッシュを差し出した。

「ん、ほら。勝手に窓開けて悪かったよ。こっちやるから」
「・・・別に。こっちこそいろいろごめん」

するとアサヒは消え入りそうな声でそう言った。素直じゃない。からかってやるつもりでおれは窓にもう一歩近づきながらにやにやとしながらもう1度聞き返した。

「なんだって?聞こえないな」
「・・・あんたの精子ついたティッシュなんかいらないって言ったの!」
「ついてねえよばか!」

やっぱりかわいくねー!こいつ絶対にモテない!潰れかけた方のボックスティッシュを手に取るとアサヒの部屋に向かって投げ入れてピシャリと窓を閉めた。そのまま鍵に手をかけて、一瞬の思案。結局鍵はかけないでおいた。今日じゃなくていい。いつかまた、昔みたいに話せたらなと思ったのだ。


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