34

カラスの頭が消えれば街中の黒はだんだんと薄まっていきまた平和な池袋の街に戻った。京一もあの日の夜からまたこの街を去ってスポットライトの下で活躍している。

「マーコト」

そんな夏の終わりのある日。あの夜以来初めてまともに顔を合わせるアサヒが店にやってきた。これください、とフルーツ串を2つ手に取ると1本を俺に渡して店番用の椅子に腰掛けた。
こいつも相変わらず、タカシの横でグレーゾーンの女王として頑張っている。

「毎度あり。ちなみに惚気なら聞きたくないからな」
「惚気って、なんのこと?」
「はあ?お前たち話し合ったんじゃないのかよ。タカシと付き合わないのか」
「話し合ったよ、いろいろ腹の中のことぶちまけてね。タカシに怒られた、あと謝られた。そのあとどうやったら付き合うに発展するのよ、そもそもわたしたち恋愛感情なんてないのに」

タカシの予想外のヘタレ具合とアサヒの鈍感具合に呆れ果てながらよく冷えたパイナップルをかじった。
普通そこまで話し合ったら勢いで好きだまで言ったりしないのか。そんな空気じゃなかったのか。
しばらくは平行線のようでじれったかったが本人たちはそれでいいのでまたしばらく様子を見てみることにした。

「ふふ、でもあの人ね、あれ以来ふたりの時は名前で呼んでくれるようになったのよ」

しかしお互い処女でも童貞でもないくせに、あまりにスローペースな恋模様にはいい加

うんざりとした。このままじゃ2人が初めて手を繋ぐ頃にはじいさんばあさんだ。
なにも言えずにいると家の前に大きなボルボが滑り込んできてタカシが降りてきた。おれを一瞥した後、アサヒに言う。

「お前、急にいなくなったと思ったらやっぱりここか。早く乗れ、急ぎの用が出来た」
「はーい、じゃあね。マコト。今度ゆっくり話そ」
「はいよ」

ひらひらと片手を振って送り出すとアサヒは素直にボルボに消えていった。そしてタカシはその後ろを追う前に俺の方に向き直る。いつも通りの威厳たっぷりな絶対零度のキング。先日見せた弱さなど微塵も感じさせなかった。

「マコト、先日はすまなかったな」
「なんの話だ、おれは別に何もしてないよ。磯貝を捕まえたのは京一だし」
「アサヒのこともだ」
「別になにも、それよりおれはお前のヘタレ具合にびっくりだよ。早く抱きしめて愛してるくらい言ってやれ」
「なにも、焦ることじゃない。あの夜話し合ってわかった、あんなこじらせた女に付き合えるのはおれかお前くらいだ。いまは自由に遊ばせて、王座を下りてからゆっくり飼い慣らして首輪つけてやるさ」
「・・・・・・」

こわ、アサヒは猛獣かなにかか。再び言葉を失ってるうちにタカシはカミソリみたいな笑いをひとつ残して去っていった。
見た目とは裏腹に言動が爽やかから程遠いやつ。やっぱりアサヒはタカシから遠ざけた方がよかったんだろうか。
そうぼんやりと考えながらパイナップル串の最後の1口を頬張った。


/ 次
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -