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あの夏の日のことは絶対に忘れない。
学生時代、タカシの兄のタケルさんがまとめあげたこの池袋の街が二分された戦争。赤と青の2つに別れて、たくさんの血が流れたあの戦争。
もう2度と経験してなるものか。そう思っていたのにこの夏、池袋はまた2つに割れてしまったのだ。
近い未来、そうなるとも知らないおれはその日いつものようにぴかぴかに光る柑橘類を並べて店の中を整えていた。甘酸っぱく爽やかな香り。この茹だるような暑さも吹き飛ばせそうだった。そんな時だ、おれのスマートフォンが着信を知らせる。
画面を見ると、心底うざったそうな表情を浮かべるタカシの顔が表示されていた。店内の気温がマイナス2度。おれが酔って寝ている間にあの幼馴染みが勝手に設定したのだ。
ため息をついて、画面をフリックして電話に出る。
「もしもし、どうした」
「マコトか、今夜空いてるよな。店仕舞いの後、ラスタ・ラブに来い」
「・・・悪い、今日は」
「デートの予定がないのはわかってるからな」
王さまはやはり最後まで冗談を言わせてくれなかった。
へいへいと不貞腐れた返事をすると、これ以上は時間の無駄だと言わんばかりに電話はすぐに切れた。
ムカついたので、
友だちなくすぞ、と通話終了を知らせる画面に向かって愚痴を吐いてみる。するとその画面の上にLINEのポップが表示された。
『負け惜しみ言わないのよ』
池袋のクイーンであり幼馴染みのアサヒ、相原 旭からだ。おれのことはなにもかもお見通しってか。ムカつくので、彼女からのLINEを既読無視してやった。2人とも大人気ないんだから。アサヒの声が聞こえた気がした。
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