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丑三つ時の人気のない神社にそいつはちゃんと約束通りひとりでやってきた。

「アサヒ」

名前を呼ぶといつも通り、とは言えない表情で彼女は笑った。

「まさかこんなに早く呼ばれるとは思わなかったな、よく気付いたね」
「敵の敵は味方だからな」

境内の石階段に腰掛けるとアサヒも横に座る。

「今回ばかりはマコトに邪魔されっぱなし。まさか貴方が本当にキング代理をやるなんて思わなかった。おかげで予定よりだいぶ早くキングが帰ってきちゃった」
「タカシを留置所に入れておけば無事に保護出来ると」
「・・・前みたいにタカシが傷つくのはうんざり。ねえマコト、Gボーイズは呪いよ。タカシはタケルさんの亡霊に縛られてる」

タケルさんが、あいつの兄貴が命に変えて創ったのがGボーイズ。あの人が命をかけたのならばタカシが命をかけるのも必然だった。

「あの人はね、わたしならこの街を護れると思ってクイーンにしたんだって。でもね、わたしそんな立派な人間じゃないの、エゴイストよ。自分の周りの大事な人間だけ護ることが出来たらいいの」

淡々と思いを述べるアサヒのやり方は彼女にとっての正解への最適解だ。

「刺したのは京一じゃないだろうな」
「まさか、違うよ。でもRエンジェルスの男の子。彼女に子供が出来てどうしてもお金が欲しかったみたいだから京一を通じて雇ったの。今頃報酬で2人どこかに高飛びしてるわ」
「そうか」

本当にこいつはエゴイストだと思った。そんな自己犠牲のもとにタカシを救おうとしたか。仲間を救いたい京一となによりGボーイズを壊したい礼にいは一旦はアサヒに協力したが結局はこいつの自己犠牲精神の行く末を案じておれにわかりやすいSOSを残した。
こいつは周りのヤツらを利用してキングを止めようとしたが結局は周りのヤツらに止められた。敵の敵は味方。

「それで、お前磯貝は」
「磯貝のことは知らない!それは本当なの。ただあいつがキングを消そうとしてるのだけ察してそれに乗じてこの状態を作っただけ。まずはGボーイズを壊して、最後に出来たてで地盤の緩いBクロウズを潰す」

敵は敵の顔をしていない。悪意だけで敵は襲いかかってこない。ため息をついた。

「アサヒ、悪いけどおれは今回タカシの意志を尊重する。お前言ったよな、タカシはいずれ王座を下りるがそれは今じゃない。あいつはあいつなりにこの世界と兄貴にけじめをつけて王座を下りるさ」

彼女は黙った。どうしようもないやつ。頭を小突いた。

「明日、どんな顔してキングに会えばいいの?」
「必要以上に立ち入ろうとしないビジネスパートナーもいいけどさ、お前たちもう少し話し合うべきなんじゃないか。いつも一緒にいるくせに」
「でもあの人、わたしのこと名前で呼んだことないのよ。いま以上踏み込めない!怖いの、いまの関係が正解なの!」
「正解なものか!よく考えろ、なんでお前がクイーンとしてタカシの横に立ってるのかを!」

アサヒの頬を涙が伝った。幼馴染と親友の拗らせた初恋に終止符を打つこんな役、本当は引き受けたくなかったがおれも大概自己犠牲精神が豊富なのでつい言ってしまった。

「今からでも遅くない、タカシのところに行けよ」
「・・・うん」

あいつの背中を押すと彼女は不安げに立ち上がりこちらを振り向いた。やっぱりガキのまま。その顔を見ているのが辛くてまたひと声掛けた。

「はやく!」

すると彼女は駆け出した。あいつらならきっと冷静に話し合える。アサヒの話を聞いてタカシがどうでるか分からないが悪いようにはしないだろうと思った。1人で突っ走ったアサヒが悪いが、アサヒを飼い殺しにしたタカシも悪い。
暗い境内で彼女の背中が見えなくなってもアサヒが駆けて行った方向を見つめていた。とりあえずはひとつ、解決。


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