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送っていくかという王様の申し出を丁重に断り、家に戻ると店番をしているのは意外な男だった。

「いらっしゃい」
「お前何やってるんだ、京一」
「あんたがほっぽり出した仕事代わってくれたんだよ!マコト!」
「あー!うるさい!」

うちのエプロンをつけてにこにこ微笑んでいる尾崎京一。おふくろが奥の座敷から野次を飛ばしたのでイライラして店との間の扉をしめた。
そして振り向くとそいつは少し呆れた顔で肩を竦めている。

「いいお母さんじゃないか、大事にしないと」
「騙されてるぞ、京一」

いい母親で大事にしないといけないのは分かっているがそれとこれとは別だ。

「アルバイトしたことないから楽しかった」
「呑気なやつ、ところでお前さっきサンシャイン通り歩いてなかったか?」
「あれ、そうだよ。エンジェルパークからここに来る途中ね。声かけてくれたらよかったのに」
「見失ったんだよ、途中で一人歩きしてるアサヒ捕まえてタカシのとこまで送ったし」
「ふうん、ところであの子結構とんでもないこと言うよね。昔から?」

確かに一緒にいて楽しいが、そんなぶっとんだことを言うやつじゃないと思う。京一がなぜ敢えてそんなことを聞いたのかわからず曖昧に返事をして京一が脱いだおれのエプロンを受け取った。

「マコトも王様も大概麻痺してるね」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味だ」

京一を見上げると既にやつは踵を返して果物屋を後にするところだった。なにがしたいのか、おれはそのとき京一の真意に気づけずにいたのだ。


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