暑中見舞い

生まれてこの方、経済とは裏腹に気温だけは右肩上がりを続けている気がする。
果物を守るための大義名分を元にエアコンの設定温度をまた1度下げた。
「あついよー、パイナップル串1本下さあい」
その時だ。そこへ暑苦しい女が到来して店番用の椅子にどかりと座り込んだ。躾のなっていないやつ。振り向かなくても誰が来たかなんてわかった。
「よう、お嬢ちゃん。ちゃんとお金持ってきたかな?」
「嫌味な人ね」
じとりとおれを見上げるアサヒに笑いかけてよく冷えたパイナップル串を1本やった。彼女はそれを手に取り対価を出すそぶりもせずにかぶりつく。ツケておけってか。
それを見届けるとおれもパイナップルを1本手に取りかぶりついた。
「それで、なんの用?」
「適当にフルーツ包んでくださる?お客さんへの手土産にしたくて」
「ウチはやくざ関係の仕事はしないことにしたんだ」
「じゃあデパートの果物屋行くからいいよ、バイバイ」
「冗談だって」
いたずらっぽく笑う彼女を引き止めてパイナップルを咥えたままなるべく高いフルーツをいくつか見繕う。どうせ経費なんだしこいつは文句を言わない。その横でアサヒが並べられた何色もの贈答用リボンで遊んでいた。
「赤にしてね、血なまぐさい感じがしてヤクザの事務所にぴったりだと思う。うーん、でも黒もいいな。突然のお葬式用にもなる」
「あんまりぶっそうなこと言うんじゃないぞ」
平篭にフルーツを並べ、ビニールをかけるとアサヒが最後まで手に取ることのなかったグリーンのリボンを手に取る。しかし彼女は何も言うことなくハサミでリボンを切り手早く結ぶ様を見ていた。
「ほら出来た」
「早い、サボり時間終わっちゃうじゃない」
「自分の部下たちにも差し入れの果物買っていけばいいんじゃないか?」
「よく言うわ、もう。クラブに差しいれる分適当に作って」
「毎度あり」
今日の売上は今月1番になりそうだ。彼女に見えないように笑った。またいい値段になるように先ほど同様の果物籠をつくる。今度は黄色のリボンで仕上げる。
「あーあ、今度こそ休憩終わりね。それじゃ請求書はいつものところによろしく」
果物籠ふたつとパイナップル串が2本。了解。そしてアサヒは重たい籠を2つ下げて去ろうとした。外は暑い。ふと可哀想になって、呼び止めてしまった。
「アサヒ」
「なあに?どうしたの」
彼女はきょとんとした顔でおれを見る。
「あと5分だけ休憩時間増やしてやろうか」
するとにやりと彼女は笑って戻ってきた。また我が物顔でまた椅子に座っておれを見上げる。
その後ろに立って彼女の髪を手に取った。手櫛で梳く。さらさら。そしてコンポの脇にこいつがずっと忘れっぱなしにしていたヘアゴムを手に取ると、ポニーテールに結んでやった。
「ほら、出来たよ」
「ダメよ、まだ3分半」
「厳しいな」
「リボン結んで、青色がいい」
そうか、ちょうどいい時間潰しになりそうだ。今度は彼女の言葉通り素直に青いリボンを手に取ってハサミである程度切り取る。そしてポニーテールの部分に結んでやった。
「はは、ガキみたいだな」
「いいもんー」
そこで丁度5分。彼女はありがとね、と言い残すと今度こそ颯爽とこの場を去っていった。


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