25

「薬で寝ているだけだ、直に目を覚ますだろうさ」

どこか頼りない闇医者はそう言い残すとポーズ画面のまま放置されていたゲームの方へと戻っていった。
おれは頭を下げると、そのままアサヒのベッドへ向かった。
するとドアのところで一条が待っていて、おれをみると薄く微笑んで言う。

「マコトさん、少し仕事を片付けてきます。まだこちらにいらっしゃいますよね」

気を使ってくれたのか、立ち去る一条を見届けたおれは、奴がいなくなった途端に半ば飛びつくようにアサヒが眠るベッドサイドに向かった。

「アサヒ、起きろよ。タカシの無実を証明してくれ」

すうすうと眠るアサヒ。エクステンションをあてた人工的に長いまつげ。すっぴんだが、薄く色づきふっくらした頬。眠り姫のようだ。いや、女王だけど。
温かな手を握る。二人きりの部屋に、珍しくいつも香るアークロイヤルのバニラがいない。勘弁してくれよ、おれはロマンチストなんかじゃないんだ。
いつまでも目を覚まさないお姫さまは、どうしたら起きるのか。答えは簡単だ。
手を握ったまま腰を曲げ、眠るアサヒの顔に近づく。
がさつで可愛げのない幼馴染。男勝りで優柔不断。あげくに人間の七つの大罪をすべて混ぜ込んだような性格。
だが素直で健気で嘘はつかないし、人を傷つけたりなんか絶対にしない。

「アサヒ、起きないと」

ガキのころ、こいつの家で見た眠れる森の美女のクライマックスを思い出した。王子さまがお姫さまにキスをして目覚めさせる。
起きないアサヒが悪いんだ。その時だった、至近距離にあるアサヒの丸い目がぱちんと見開かれた。
驚いた様に瞬かれる瞼。おれは驚いて声も出せなかった。
重たい沈黙と永遠に似た一瞬。その後に、状況を理解したアサヒが悲鳴をあげた。


/
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -