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「住居不法侵入、暴行、器物損壊、盗撮、ストーカー」
吉岡が指折り罪状を上げていった。
「タカシは悪くない」
「池袋はギャングたちの王国じゃなく法治国家日本の一部だぞ」
やつの言うことはなにも間違っちゃないが、不服だ。正論だからこそ不服になることもある。
ここはウエストゲートパークの喫煙所、少し離れたところからGボーイズのボディガードたちがおれたちをじっと監視していた。落ち着かない。
「じゃあアサヒが目覚めて、タカシの無実を証明してもあいつは釈放されないのか」
「どうだろうな、署長がタカシを離したがらない。やれやれ、あの工業高校で数少ない優等生だと思ったんだがな、タケルとタカシは」
知っている。最初に見たタカシはあの荒れたヤー公のファームに似合わないほど地味で物静かな男だった。自信なさげに俯いてばかりで、1年の殆どをマスクをして過ごしていた。そして寂れたゲームセンターでメダルゲームで時間を潰すばかりで女に浮かれているところすらもほとんど見ていない。
しかし一度、アサヒの話をした事があった気がする。まだタケルさんが生きていて、池袋をまとめあげる前の話だ。
タカシが淡々とメダルを機械の中に送り込みながらふと口にした。
「隣のクラスの相原って、仲良いのか」
急になんだよ、タカシに恵んでもらったハニーローストピーナッツを噛み砕きながら驚いてやつを見ても彼の視線は機械の中のメダルから動かない。
5000円でウリをしていると噂が流れていた、疎遠になってしまった幼馴染。タカシはあんなやつが気になるのかと驚いた。
「別に、家が隣で小中高ずっと同じなだけの腐れ縁だ。なんだよ、惚れたか」
なんでも、理科室に置き忘れた教科書をあいつが届けに来たらしい。それだけ。
ふうん、そう相槌をうって袋の底に残ったピーナッツを口の中に滑り込ませた。あいつはあの頃から、アサヒに目をつけていたのだろうか。その2年後、告白の仕方が分からなかった安藤少年はよりによって5000円であいつを買うことでアプローチをかけた。やつのスマートさも生まれつきではなかったようだ。
おれはどうしようもなくなって空を仰ぐ。とりあえずは面倒事をひとつひとつ、潰していかないといけない。
「とりあえず、署長は本気だぞ。王様ごっこも大概にして、いい子にしてないとおふくろさんが泣く」
こっちだって本気だ、警察は今回は敵。おれは吉岡を無視して鼻を鳴らした。するとやつはため息をついてくしゃくしゃになった煙草の箱を差し出してくる。オレンジの安煙草、エコー。遠慮なく1本貰って咥えるとコンビニライターで火をつけてくれた。
「まあ、おれはなんだかんだあのカラスよりはGボーイズの方が好感がもてるがな。ここだけの話、応援してるぞ」
職務怠慢だ。おれは吉岡が咥えた煙草に火をつけてやった。
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