21

アサヒはいつもと変わらない表情で眠っていた。その寝息にひとまず安心して、薄手の毛布の上に投げ出されていた手を握った。ちゃんと暖かい。

「アサヒ」

細くて柔らかい、女の手のひら。カタギもやくざも関係がない。
両手でその手を握りしめながら小さな声で呟いた。

「起きろ、はやく起きてタカシの無実を証明してやれよ。アサヒ」
「いや、寝かせてやれ」

しかしだ、突然の入室。礼にいと医者だった。
礼にいが医者に対して頷くと医者は注射器を取り出してアサヒに近づく。おれは嫌な予感がして咄嗟に庇うように彼女に抱きついた。

「礼にい、なんなんだ」
「やめろ、マコト。すみません、お願いします」

しかし礼にいに引き剥がされてそのうちに医者はアサヒに注射を打つとこちらに控えめにお辞儀をして去っていった。おれは乱暴に礼にいから離れてアサヒのそばへ行く。

「なにをしたんだ」
「鎮静剤だよ、アサヒにはしばらく眠っていてもらう」
「どうしてそんなことを」
「安藤 崇が無実であることが証明されたら困るんだよ」

礼にいの指がアサヒの頬を撫でた。ただすやすやと眠る妹を見守る優しい兄の目付き。
おれたちの兄貴、礼にいはいつだって正しかった。頼れて誇れる池袋署の署長だったはずだ。

「GボーイズやRエンジェルズのやつらばっかり引っ張られているのも礼にいの策略か」
「・・・Gボーイズの力は強大すぎた。ならば内側から腐らせるしかないだろう」

1度もおれの目を見てくれないのは罪悪感だろうか。礼にいの作戦は完璧だった。

「アサヒには悪いと思っている」
「Gボーイズが瓦解するまで眠らせ続けるって言うのか」
「マコト、最後の忠告だ。手を引いてくれ。アサヒやタカシのようになりたくなかったらな」

思いつめたの目の礼にいに、思わずアサヒのあたたかな手を離す。本物のキングなら、タカシなら手放さなかっただろうか。

「わかったよ、横山さん。徹底抗戦だ」

そのとき、また病室にノックの音。入室を促すと、そこには一条と2人のボディガード。

「マコトさん・・・いえ、キング。お迎えにあがりました」

キングと呼ばれるのはむず痒かった。やっぱりおれには合わない。しかし礼にいの前で見栄をはらないわけには行かなかった。
おれはタカシのようにゆっくりと頷いて立ち上がる。また来る、とアサヒの耳元で呟いて礼にいに背を向けた。

「おまえは賢い子だったはずだよ」

その背中に届く悲痛な声。おれはその声を無視して、3人に囲まれて病室を出た。扉が閉まるのを確認して、小声でいう。

「おれはどうせ、タカシが帰るまでの代理だよ。キングなんて呼ぶの、やめてくれ」


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