20
病室に駆け込むとアサヒのおやじさんとおふくろさんがベッドの横に座っていた。アサヒは眠っている。
「マコトくん、来てくれたの」
そしておふくろさんが、疲れた顔でそうおれに笑いかけてくれて席を譲ってくれた。一気に老け込んでしまったようだ。おれは首を横に振ることしか出来ずに恐る恐る無機質な白いベッドに近づいた。
「アサヒさんは」
「大丈夫だ、傷は浅く致命傷にはならなかった。しばらく安静にした後に退院出来るらしい」
おやじさんがそう答えてパイプ椅子から立ち上がっておふくろさんの肩を抱いた。
「なあマコトくん、君は池袋のトラブルシューターなんだろ。噂をよく聞くよ。そこで、頼みがあるんだ」
「うちのアサヒを助けてやってくれませんか、この子がやっていることは薄々察しがついています。でもそろそろ、子どもの遊びはおしまいにしてカタギに戻してあげて」
そして2人して頭を下げてきた。おれは何も言えずにいた。叫び出して逃げ出したくなる。
今まででいちばん難しい話だった。これではタカシを裏切るかアサヒの両親を裏切るかの話になってしまう。
しかしおれの動揺を察したのか、おふくろさんは慌てて愛想笑いを浮かべてなんでもないのと首を振った。
「ちょっと、ご飯食べてくるね。アサヒを見ててあげて。そろそろ麻酔が切れる頃だから」
すれ違いざまに言ったすみませんの意味は、自分でもよく分からなかった。
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