18

「今度はうちがお前たちに手を貸してやろうか」
「勘弁してくれ」

にやにやと笑って詰め寄るサルをタカシがうんざりとした顔であしらう。
羽沢組の渉外担当であるサルに呼び出されたおれたちは貸し切られたクラブで飲んでいた。
なにやらいつもより酔っ払うのが早いサルは用件もろくに話さずタカシやおれに絡み酒。ロックのウイスキーに口をつけるキングの顔には来なければよかったという文字がでかでかと現れていた。

「それより相原は来ないのか」
「疲れていたからホテルで寝かせてきた。実家は実家で獣でも飼ってるようだ、危ないだろ」

訳が分からないという顔をしたサル。背筋がひやっとしたおれもサルに同調しておいた。
それにしてもこいつは姫といい、クイーンといい、どうも身分差の恋が好きらしい。
そして行く先々の男たちから自分の女を執着をされご機嫌ななめのタカシは頬杖をついてグラスを回していた。
「ていうか、お前たちさっさと戦争を終わらせてくれ。商売上がったりだ、おれ個人の力ならいくらでも貸す」
治安が一気に悪化してからさすがに歓楽街の客足が落ちたらしい。愚痴にも似た懇願にまた面倒な依頼が重なったと焦りを募らせた。ぐるぐると頭を駆け回る厄介事の中にサルの顔も追加される。

「やってる、シビルウォーの二の舞にはさせない」
「期待してる」

それからアサヒのボディーガードを志願したサルの話をばっさりと断ってタカシは立ち上がった。俺も慌ててあとを追う。一晩貸切で好きにしていいとのことだったが、おれはどうもクラブというものが肌に合わなかった。

「揃いも揃ってアサヒ、アサヒ。おれってそんなに頼りないか」

そして出口を出るとそんなひとり言。池袋一の色男を悩ませる、罪な女だ。アサヒのくせに。
おれは正論を叩きつけてやる。

「名実ともにお前の女にしちゃえばいいんじゃないか」

安藤 旭。親友と幼馴染みの結婚。あいつらのためなら結婚式の司会だろうがスピーチだろうがなんだって引き受けてやる。
しかし王さまはナーバスになってぴかぴかに磨かれた自分の革靴の先を見ながら歩いていた。

「あいつに首輪つけられるほどの男か、おれは」
「おまえ以外に出来るやつなんていないぞ」
「おまえの方が適任じゃないのか」

勘弁してくれ、おれは20年あいつの面倒を見続けてきたのだ。むしろおれはアサヒの兄、いや親だ。
かわいいところも知っているが、手を出そうだなんて考えたこともない。一緒になって鼻を垂らして鬼子母神の境内を駆け回った女と恋仲になれだなんて土台無理な話である。
そう諭すとタカシは一瞬だけ考え込んだが、その切れた頭脳は一瞬で回答を弾き出した。

「いや、やっぱり無理だ。おれはあいつをたったの5000円で買った。そんなやつにおれは似合わない」

そう言い残すとタカシは足早に去っていってしまった。
色ボケキング。前回の戦争ではおれの方が初恋にうつつを抜かしていたが今回はあいつだ。困ったコンビ。


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