15

2人で病院に駆け込むと、待合席のところに顔見知りが溜まっていた。
礼にい、吉岡、タカシ、一条。
4人はいっせいにこちらを振り向く。そして吉岡が一番に声をあげた。

「マコト、またお前か」

いつ見ても安っぽいポリエステルのスーツ。寝てないのだろうか、酷く疲れた顔で頭を掻いていた。
その横をすり抜けてアサヒはタカシと一条に駆け寄ろうとする。

「エンデンジャーの容態は」

しかしその腕は夏用スリーピースをしっかり着込んだ礼にいに掴まれた。不服そうに振り返るアサヒと、一瞬だけ礼にいを睨むタカシ。

「いい加減にしないか、お前たち。戦争ごっこはもうたくさんだ」

8つの黒い瞳に見つめられてもさすがの署長はたじろがなかった。

「マコト、アサヒ、私情を挟んで申し訳ないがお前たちにかすり傷ひとつ負って欲しくない」
「わかってるよ、礼にい。気をつける」

アサヒが演技じみた甘えを含んだ声でそう返事をする。幼馴染みの警察署長より怪我した仲間。だからそのまま手を振り払おうとしたが、がっしりと彼女の腕を掴んだ大きな手のひらは離れない。

「前回の時みたくもう未成年じゃないんだ、ちゃんと守ってやれない。だがそれでもお前たちを守るために、いまこの場で適当な罪状つけて引っ張って行くことも出来るんだぞ!」

頭が良くて、クールな礼にいが怒鳴るのを初めて見た。医師や看護師たちが睨むようにしてこちらを見て足早に去っていく。

「次におまえ達が不審な動きを見せたらすぐに引っ張るぞ」

そしてそう忠告を残すと、礼にいは手を離して吉岡を従えて去っていった。自動ドアをくぐる間際に吉岡がこちらを振り返り、申し訳なさそうな顔をする。それに対して思いきりガンを飛ばした一条にタカシは、淡々とした声音でアサヒと一緒に襲われたGボーイズの部屋へ行くように告げた。2人は顔を見合わせて足早に去っていく。
それを見届けると、タカシは待合室の椅子に座った。おれも隣に座る。そしてやつは鼻で深く息を吸い込んだ。あからさまに不機嫌なのが見てとれた。

「礼にいからなにか言われたのか」
「お前とクイーンを手放せと」

感情のない瞳。こういうのも何だが、人との繋がりが希薄なタカシにとっておれとアサヒはこいつの数少ない家族同然の人間だ。手放せと言われてそう簡単に手放せるものではないだろう。

「気にするなよ、所轄が荒れてて当人も荒れてるんだ」
「お前たち、おれに頼られるの迷惑か」

珍しく弱ってる王さま。おふくろさんが亡くなられて以来。

「そんなわけないだろ、おれもあいつも」
「だがクイーンは目を離すといつもいなくなる」
「昔からだよ。迷子になったあいつの搜索に何度駆り出されたことか」

あっちへふらふらこっちへふらふら。でもそんなアサヒを見つけるのがおれは上手かったと自負している。
タカシは苦笑して薄汚れた天井を見上げた。

「頼むからそばに居てくれ、せめてこの戦争が終わるまで」
「タカシが池袋から出ていかない限り、嫌でもそばに居るさ」

それをきいて、やつは安心したようにほんの少し幼い微笑みをみせた。誰もが見たがるキングの微笑。

「それからおまえ」

しかし突然、思い出したようにタカシは肩を組んで来る。なんだよきもちわるいな。

「シャツくらい替えてこい、アークロイヤルの香りは誰にでもわかるぞ」

げ。シャツの匂いを嗅いだ。人工的なバニラ。アサヒの煙草。
慌てて弁明したが、やつは鼻で笑うだけだった。いつもの調子に戻っている。
やっぱり池袋の王さまは、こうでなくちゃな。


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