10

約束通り、ウエストゲートパークで落ち合った京一と音楽の話をしながら街をぶらぶらと歩く。
青いガキにはGのハンドサイン、赤いガキには翼のハンドサイン、黒いガキには話を聞きに行く。
誰の真似で始めたのか、街でたまたまみかけたから。
何度目かわからないその問答におれたちは顔を見合わせて声にならないため息をついた。
もう今日は諦めようか。もうそんな空気が漂い始める。そんな時だった。

「京一」

微かに聞き覚えのある声が暗がりの路地に響いた。立ち止まる。
おれは誰だろうと後ろを振り向いたが京一はまるで金縛りにでもあったように強ばった顔で前を見ていた。
京一の知り合いか、そこまで思ってふと頭の中のパズルの一部がぱちりと動いた気がした。

「久しぶりだな、マコトも」

そしておれはここでようやく、この声の持ち主を思い出す。あの夏の日、聞いた声。
磯貝 繁幸。あの戦争の本当の黒幕で私利私欲のためにGボーイズに罪を着せてRエンジェルスのメンバーを殺した男。こいつさえいなければ流れない血がたくさんあった。未だに動けないでいる京一に代わって暗がりを睨む。

「出てきたのか」
「この前な」
「よくこの池袋の地が踏めたな、どこにいるんだ!」

そこでようやく、京一が低くそう発言して振り返りつつも大きく跳んだ。おれは慌てて追いかけて手首を掴む。
憎しみを全面に押し出した京一が振り向いておれを睨む。怯みそうになったが、負けてられなかった。大声で叫ぶように言った。

「やめろ、すぐそこは交番だ!おまえは捕まったら失うものが大きすぎる」
「さすがマコト、助かったよ。そいつに膝を壊されたせいであまり早く走れないんだ」

しかしそれにそう皮肉めいた言葉を被せてくる男への怒りと理性とでギリギリの均衡を保つ京一の表情は、まるで狩りを邪魔された獣。
抑えろ、クールになれ。そう小さく呟く。まるでウエストサイドストーリーのジェット団のようだ。

「おまえがカラスの頭だな。何を企んでいるんだ」
「復讐に決まってるだろ」
「タカシに勝てるとでも、京一もいるんだぞ」
「だから数で勝負する。正直言って、あの王さまに降りてもらいたがっているガキはあの時より更に大勢いるんだ。宣戦布告だ、いまこの瞬間から」

今度はおれがカッとなりそうな番だった。あいつがどんな思いでこの池袋をまとめ上げているのかを知っているのか。たったの17歳で天涯孤独になったあいつが。
王様なんて生半可な気持ちで出来るようなことじゃないんだ。跳ねっ返りの馬鹿なガキを拳とハートで先導し、利用しようとしてくる大人たちを見極めて。休む暇もない。

「おまえ、絶対潰すからな。今度は刑務所なんて生ぬるいところじゃ済まなさい。とっとと失せてくれ」

その言葉を絞り出すのが精一杯、からかうような笑い声をひとつ残して、足音が消えた。
それと共に京一が駆け出して、そのしなやかで長い足を思いきり使って道端の自動販売機のごみ箱を蹴飛ばす。派手な音を立てて、缶やペットボトルが黒いアスファルトに散らばった。
そしておれたちは走り出した。なんとしても止めたい。この戦争を。
シゲユキへの憎しみを思い出して暴走しかける京一のため。名前も知らない誰かのために血を流すタカシのため。それを泣くアサヒのため。
しかしそれは叶わぬ願いだった。


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