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午前中はお客が少ない。久しぶりに引っ張り出してきた弦楽四重奏を聞きながらのんびり店番をしていると、昼過ぎにほんの少し疲れた顔をした京一が顔を出した。
懐かしい、そう言って目を細めて店内を少し見回したかと思えば今朝仕入れて並べたばかりのそれを見つけてポケットから財布を取り出す。

「グレープフルーツください、一番熟れてるやつ」
「はいよ」

小銭と引き換えに、いじわるして一番青いグレープフルーツを渡す。するとそのいじわるは伝わらず、宿酔にはこれだよと奴は小さく呟いて皮をむき始めた。基本的には性善説を推奨する人のいいやつなのだ。
この辺りじゃあまり見かけない純粋さにほんの少し呆れながらコンポのボリュームを絞る。

「あれからずっと飲んでたのか」
「まあね。あんなに騒いだのはタカシとの決闘前夜以来かな。みんな変わらなかった」

そしてやつははにかむ。天使の笑顔。
どこぞの王様とはまたテイストが違った男前。日本人離れした彫りの深い横顔。あいつが氷でこいつは太陽だ。
この笑顔で何人のBクロウズがRエンジェルズに寝返るだろうか。
そんなふざけたことを考えながらなにげなく京一に訊ねた。

「なにか分かったか」
「全然。黒い子もいたけどみんなヘッドのことも一番最初に始めた奴のことも知らなかった。あの子の言うとおり」

まあ、アサヒが寝ずに情報を集めても手がかりはほとんど引っかからなかったのだから当然だ。手詰まり。おれは熟れたブドウを1粒摘んだ。
そして京一はあくび混じりにグレープフルーツをつまみながら質問を返してきた。

「あの子さ、アサヒさん。タカシの彼女なの」
「違うよ、単なるビジネスパートナー」
「ふうん、それにしてもずいぶん仲がいい」

あいつらの仲を探りたくなるのは当然のことだ。ストリートでもいろいろな噂が現れては消えていた。
あのタカシが執着する女。とびきりの美人ではないし、頭の回転が早い方かもしれないがその頭角を現すことはほとんどなく、挙句に喧嘩は出来ない。しかしただのお飾りとは言えない。ただし時折仕事から逃亡しては辺りを騒がせている。
あいつらが何を思って互いを支えているかなんて、こっちが知りたいくらいだ。おれが知っているのはせいぜい2人の馴れ初め。まあ、そんな高校時代の昔話は後ですることにして、また夜の10時にウエストゲートパークで落ち合う約束をして別れた。
早くカラスの頭を見つけて叩かなくてはならない。余計な血を流させないために。


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