蚊帳の外

またあれから数日後、校内であの時ぶりにアサヒを見かけた。お互いひとりで人気のない廊下を歩いていたのをいいことに声をかけた。
学校指定のブレザーに、相変わらず生脚をさらけだすミニスカート、それから見慣れない大ぶりのマスク。

「風邪ひいたのか」
「うん、そう」

しかし返ってきた透き通った声は全然風邪なんて引いてなさそうだった。しかし瞳は真っ直ぐおれを見抜いているので、嘘つくなよともなんだか言えずにそうかと返事をすることしか出来ない。嫌な説得力を持つ目だなと思った。

「今年の冬はなんだか冷えるね、マコトも風邪引かないように気をつけて」

そして彼女もおれに背をむけて去っていく。すれ違いざま鼻を掠めたのは人工的な爽やかな匂い。まるで煙草の臭いを覆い隠すような。
アサヒ、そう伸ばしかけた手を引っ込めた。後ろで人の気配がしたから。思春期のおれには幼馴染に手を伸ばすことも叶わなかった。ばかみたいだよな。
お前、変なことしてないよな。危険なことするなよ。お前までいなくなったら、おれは。言いたかったはずの言葉を胸の中で反芻させた。しかし彼女を追いかけることはしなかった。彼女は賢い。大丈夫。きっと全てはおれの思いすごしだ。そう無理矢理自分に言い聞かせた。


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