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帰り道ではタカシとBクロウズの話を避けて、幼馴染みたちの話をして帰った。
礼にい、ショウ、サル、和範、千秋、山井。そこまで話すともう家の前だった。そこには真っ黒なメルセデスベンツが停まっている。そして、眉を吊り上げてかんかんに怒っていますというのがひと目でわかる一条が車に近づいてきて助手席のドアを開けた。
「クイーン」
怒っていますというのがありありと伝わる低い声。
うちのおふくろみたいな男。アサヒは大袈裟に首を竦めた。
彼女が仕事を抜け出してサボるのはいつものこと。もうこれ以上怒っても仕方ないことをやつも分かっているのか何も言うことはなかったがアサヒは小さくなってすごすごと助手席から下りた。
「ご迷惑をおかけしました、マコトさん」
そして一条は申し訳なさそうに頭を下げてそう言うと助手席のドアを閉めて立ち去ろうとした。その奥にはどこか寂しげなアサヒの背中が見える。今朝励ましたつもりだったが彼女はまだなにやら深く考え込んで落ち込んでいるようだ。こんなことも珍しい。
おれは慌てて、助手席の窓を下ろしてメルセデスベンツに向かうその背中に向かって呼びかけた。
「悩みすぎるなよ、アサヒ!」
その声にアサヒは振り返り、曖昧な微笑みを浮かべながら頷くとひらひらと手を振りながら車に乗り込んでいった。そして一条も乗り込むと静かにメルセデスベンツは発進して行く。
そこへおふくろが半開きの店のシャッターの下からひょいと顔を出した。
「なんだい、アサヒちゃんと行っていたのかい」
タカシくんはまだアサヒちゃんに告白してないのかい、もうマコトが奪っちまいな。例え駄目でも2人の仲を盛り上げられるならいいじゃないか。そう何度目かわからない台詞。
勘弁してくれよ、お見合いババア。今度はおれが首を竦める番だった。
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