工業高校の怪談
とりあえずさっきの女子生徒のところまで戻ると幾分か落ち着きを取り戻したようでアサヒにもたれ掛かるようにしながらも立ち上がっていた。
取り逃した、とアサヒに伝えると使えないわねなんて軽口を言うのでローファーを踏んづけてやろうとしたがやつはひらりとかわす。
「山田さん、落ち着いた?出来れば話聞かせてくれないかな」
そんなことをしているうちにタカシが聞いた事のない優しい声で女子にそう聞いていた。マスクはいつの間にか外して今日は腹立たしいほど爽やかな営業スマイル。女子、山田さんは僅かに頬を染めて緊張したように話し出した。
というかタカシの野郎、学年の女子の名前全員覚えているのか。むっつりめ。
「え、はい、あの、青白い顔の、男子生徒の制服を着た細身の・・・」
うちの高校の基本の夏服はおれが今着ている片胸にポケットがついた半袖の開襟シャツに黒のスラックス。しかし冷房に弱いタカシは長袖のカッターシャツに今は袖をまくっていた。
そのうちのタカシの服装の方を指さして彼女は話す。
「うちの学校の生徒じゃないのか、こいつみたいに血色の悪いやつ」
タカシとアサヒが静かにしてろと言わんばかりにおれをじとりと睨んだ。はいはい、黙ってます。
「だって・・・その・・・のっぺらぼうだったんです・・・!確かに見ました!目が合ったと思ったのに!目がなくて!わたし更衣室の傍から追いかけられてきて!ここまで逃げて・・・!」
また取り乱したように女が泣き始めたアサヒが宥める。タカシはそれに気にした様子もなく考え込むように黙ってしまった。
「今日は家まで送ってあげるから泣かないで、ね」
「おい、大丈夫か。おれも着いていこうか」
「あんたの方が危なそうだからいい、この前礼にいに護身術習ったし」
純粋に心配してやったのに、やっぱりかわいくねえ女。
こちらに背を向けてさっさと行ってしまったアサヒの背中をあっかんべーと舌を出しながら見送っているとタカシがからかうように言った。
「勇ましくていいじゃないか、護ってもらえよ」
「なに言ってんだ」
タカシを小突くとやつは少しよろめいた。自分こそアサヒに護ってもらうべきなんじゃないかと思った。
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