工業高校の怪談
放課後を迎えた夕暮れどき、おれとタカシは校庭に打ち捨てられるように置かれているベンチに並んで腰掛けて、紙パックのジュースを飲んでいた。
幽霊が目撃される時間は様々だが大抵は夕暮れすぎからだ。その時間を迎えるまで、適当にお菓子やジュースを腹に流し込みながら時間を潰していた。日が落ち始めたことでそろそろ部活に励む生徒たちも後片付けを始めている。
それにしても暇だ、早く出てきてくれないかな。なんて思っていると目の前を見知った女が通りかかった。やつはおれの顔を見ると眉を顰めて足を止める。
「・・・こんな所でなにしてんの?」
隣のクラスの幼馴染、相原 アサヒだった。いつの間にかだいぶ伸ばした髪を風になびかせ、スカートの長さはパンツが見えるぎりぎりで白く細長い足を惜しげもなく晒し出している。見てらんねー、と視線を逸らすと別にと素っ気なく呟いた。人見知りのタカシも慌ててずり下げていたマスクを持ち上げる。
「部活もやってないのにこんな所に居座って、あやしいなー」
「なにが怪しいっていうんだよ。お前だって帰宅部のくせにこんな時間まで制服で校庭うろうろして」
「最近部活棟で女子更衣室に泥棒入り込んでてさ、だから見回り頼まれたの。まさかあんたじゃないでしょうね」
「なんでおれがお前らのもの盗まなくちゃいけないんだよ、そこまで飢えてねー」
アサヒが眉をつりあげてこちらに向かってこようとした。盗んでないならいいだろうに、なにが気に食わないんだか。殴られると思って大袈裟に身をすくめたがやつはすぐに隣に座っているタカシの存在を思い出して踏みとどまる。そうだ、こいつミーハーなんだ。本命はタケルさんだと豪語しつつ、隠れイケメンのタカシにも目を輝かせているのをおれは知っている。
「っ、と、とにかく、変な人見かけたら教えてね。それじゃ、邪魔してごめんね、安藤くん」
「・・・別に」
タカシには濡れ衣も着せずになぜか気をつかって去っていくアサヒの背中にそんなに暇じゃないだなんて言葉を投げかけようとしているとなぜだかちょっと弾んだ声音のタカシに話しかけられた。
「相原さん、幼馴染だっけ」
「そうだよ、隣の家に住んでて小中高ずっと一緒。いい加減見飽きた」
「そんな贅沢言ってると一生彼女出来ないぞ」
大きな瞳がおれの顔を覗き込む。なぜ周りはおれとアサヒをくっつけたがるのか。余計なお世話だ。おれたちは恋人になるには近すぎる場所にいた。いまは反対に離れすぎているけれど。
代わりにこいつと恋仲になるアサヒの姿を想像してみた。きっとアサヒの方がタカシにベタ惚れで鬱陶しいくらいになるだろうな。だって面食いだし。想像上のアサヒのミーハー具合に勝手に呆れる酷いおれなのだった。
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