出られない部屋のふたり

タカシが目を覚ますと、真っ白で見覚えのない部屋にいた。無機質で真っ白な壁と床。狭い部屋の中にあるものといえば自分と横で眠る女、相原 旭だけ。もちろんこんな部屋に心当たりなんてない。だれかの罠か。警戒しつつアサヒの様子を伺った。

「うーん・・・乗りたくない・・・埼京線川越行きだけには乗りたくないです・・・」
「・・・・・・」

どんな夢を見ているのか。タカシにはさっぱり検討がつかなかった。しかしとりあえずは元気なのだろうと判断し、こんな状況にも関わらず呑気に眠りこける女の頬を叩いた。

「おい、起きろ。アサヒ」
「さいたま新都心って名前調子乗りすぎ・・・うーん・・・た、タカシ?」

そしてぺしぺしと何度か叩いたところでようやくぼんやりと覚醒してきたアサヒが目を開く。寝ぼけ眼がタカシの顔を捉えて、ふんわりと微笑んだ。

「・・・おはよ、朝?」
「危機感のないやつだな、周りをよく見ろ」

そしてそう言ってアサヒの身体を助け起こすとようやく彼女は周囲を確認し、事態を把握して目を丸くさせる。それから思わず自分の手をぎゅっと握りしめた。するとくしゃりと紙の潰れる音がした。驚いてまた握った手を開くと、そこには潰れたメモ用紙。手元を覗き込むタカシと目配せをし合う。そのまま紙を開くと印刷された文字をふたりで読み上げた。

「手を繋がないと出られない部屋・・・?」

また顔を見合わせる。たしかに部屋を見回しても扉も窓も何も無い。閉じ込められている。しかし何を思ったか、犯人はただ手を繋ぐだけで解放してくれると言う。そんな安い話はない。
ふたりは恋仲ではない。だからといって手を繋ぐことぐらいで恥じらうような子どもでもなかったのだ。タカシが差し出した手をアサヒがそっと握った。温かで小さな手をタカシが優し握り返せば、がちゃんと音がして壁の一部が開いて向こうの景色が見えた。

「うわ、本当に開いた。なんなの」

アサヒは驚きと喜びを交えてタカシを見つめる。犯人の目的が全く読めなかった。
しかしそれはさておき、退路が開いたと言ってもアサヒはその手を離す気配がない。タカシはそれをいいことにまた一段とその手のひらを握りしめて外へとエスコートした。

「まあ、出れたからいいじゃないか。さっさと出て飯でも食べに行こう」
「うん、そうだね。お腹空いたよ」

人に出会うまで、互いに気がつかなかったふりをして手を繋いだままでいよう。それに多分、これ夢だし。かつてないほど近くに感じる体温を互いに心地よく感じながら、ふたりは部屋を出るのだった。
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ふたりして同じ夢見たよって話(?)

今日のタカシとアサヒ
手を繋がないと出られない部屋に閉じ込められる。数十秒でクリアし、手を繋いだまま退出。何事も無かったかのようにデートに出かける。
#今日の二人はなにしてる
https://shindanmaker.com/831289 より


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