成人済半田と高校生夕香

小さい頃に、病院で出会った。お兄ちゃんのサッカー部の人だってわかったからすぐに仲良くなれたし、名前も教えてもらった。半田おにいちゃん。小さい頃のわたしはそう呼んでいた。その半田おにいちゃんとは、何度も話したり、遊んでもらっているうちにわたしは恋をしてしまった。その恋をいまだ捨てられないわたしは、馬鹿だなあって思う。

半田さんは稲妻町の会社に勤めていることをお兄ちゃんから聞いた。だから、わたしはこの前帰りに半田さんを待ち伏せした。昔とあまり容姿がかわってないので、すぐわかった。彼のほうもわたしが名乗るとすぐに思い出してくれて、すこしお話しただけで仲良くなった。また、会う約束もした。半田さんを見て改めて、わたしはまだあきらめてないんだなあ、なんて思った。
「半田さんは、すてきな方ですよね」
「えー、そうか?でも会社じゃいつも失敗してばかりで、すぐ怒られるんだぜ」
「…ふふ」
なにそれ、おかしいね。わたしがそう言ってわらうと、半田さんも苦く笑いながら頭をかいた。そういう面白いことをいうところなんて昔から変わってない。病室にいたわたしをいつも笑わせてくれたのは半田さんだった。
「ねえ、半田さん。半田さんって、いま、幸せですか?」
「うん。俺は幸せだよ。なんだかんだで就いた会社でもうまくいってるし、得したこともたくさんあったし、なにより…」
それから、すこし間があいた。なにより、なんだろう。わたしはそう思いながら、うつむいている半田さんの顔を窺おうとしたら、ばっと顔をあげられた。半田さんとばっちり目が合うと、にこっと笑われる。
「なにより、結婚したんだ、俺」
そういう半田さんにわたしは頭が真っ白になった。薄っぺらい相槌だけ打って、それ以上口を開くことはできなかった。それは、とうぜんだろう。半田さんだってもう二十歳を超えているのだから。なんでわたしは、すこし期待していたのだろう。なんで半田さんが結婚しているという可能性を考えなかったのだろう。ああ馬鹿だ。わたしはやっぱり、馬鹿だ。
「俺の奥さんは、俺みたいなへんてこな奴に捕まっちゃったけど、夕香ちゃんは、立派な旦那さん捕まえなきゃだめだよ」
「……半田さんが」
「ん?」
「わたしは、半田さんがよかったです」
ほんとうはこんなこと言うつもりはなかった。嫉妬で物を言う女ではなく、素直におめでとうと言える女になりたかった。こんな、わたしを、半田さんは嫌ってしまうだろうか。いや嫌わないだろう。だってわたしの知っている半田さんは人を心の底から嫌える人ではないからだ。証拠に、わたしの髪を梳くように頭をなでてくれる。
「そっか。ありがとう」
「……」
「俺みたいなやつに、そういうこと言ってくれる人がいるだなんて、俺はうれしいよ」
決して、子供扱いしているわけでもないだろう。だがわたしがどれだけ本気だったのかもわかっていなかっただろう。だから、帰り際にキスのひとつでもして帰ろうかと思ったが、迎えに来た奥さんのお腹が膨れているのを見て、わたしはそんなことする気も起らなかった。
わたしの恋はきれいに散ったのだ。

110901 夕半
わたしは泣かない
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