反省してよね優等生

 怒りの赴くままエースを尻叩きの刑に処したナマエこと監督生だけれど、一夜明けて冷静になるかといったら全然そんなことはなかった。ちょっと寝たくらいじゃあ3日分の疲労はなくならない。むしろちょっと回復したことでアクセルがさらに踏み込まれてしまった。
 なんなら泣きながら許しを請うエースの姿に開いてはいけない扉が開きかけて、大火に油をぶちまけた状態。
 授業中も目が据わっている監督生の有様にデュースは内心ビクビクしていたけれど、逃走など優等生を目指す身としては選択できないし、仮に選んだとしても自分ばかり酷い目に合うのは御免なエースに連行されるだけだ。NRCはそういうとこシビア。友情をたてに無理を強いた時点で運命は決まっていたのだ。南無三。


 運命の放課後、オンボロ寮の談話室に連行されたデュースは、不気味なほどきれいな笑顔の監督生に正座を言い渡された。

「今回の件でお話があります」
「……はい」
「素直でよろしい。私がいいと言うまで正座を崩さないこと。いいね?」

 一瞬、彼らの女王を幻視した。すぐにそれは霧散したけれど、今にも首輪が飛んできそうな緊張感で背筋が伸びる。
 監督生は大人しく従うデュースからマジカルペンを取り上げて遠くへ転がした。いくら今は従順とはいえ、いつ抵抗されるかわからない。デュースは荒事に慣れた元ヤンだから、攻撃手段は奪えるだけ奪い切らなければ。非力な彼女は備えの大切さを知っている。

「両手、出して」
「え?」
「出して」

 困惑のまま両手を差し出してフリーになったデュースの膝の上に、ずしりと重みのある置物が乗せられた。目を白黒させている間に、差し出した両手は手錠で縛められてしまった。

「監督生!?」
「あら、エースみたいに尻叩きの方がよかった?」

 ゾッとするような笑みをたたえた監督生に、デュースは慌てて首を振った。オンボロ寮から戻ってきたエースがきまり悪そうな顔をしていたのは覚えている。同い年の女の子にそんな子どもみたいな叱られ方をしたのなら、ふてくされるのも道理だろう。標的にならなかったことに心底安心した。
 ただ、尻叩きをやめた監督生が何を選ぶかはわからない。これより酷いものかもしれないし、少しだけマシかもしれない。これから己にふりかかる災いに、デュースは身を縮めて備えた。
 監督生はデュースの従順な様子に支配欲が満たされて気分が良くなって、少々甘い顔をした。

「そう、それはよかった。デュースがテスト前に毎日勉強していたのは見ていたから、エースに対してほどは怒ってないの」
「ナマエ……!」

 監督生は努力できる人が好きだ。デュースは要領がお世辞にもいいとは言えないし、成果は微々たるものだけれど、努力を積み重ねられる人だ。だから他より少し甘くなってしまうのは仕方ないのだ。
 憂いをのせた瞳を伏せて、でも、と続ける。

「友達だからって仕事を、それも自分のせいでしなきゃいけなくなった仕事を押し付けるのはナシ。ただのいじめっ子でしょう? 私、家までなくしかけたんだから、ちょっとくらい八つ当たっても許されると思うのよね」
「すまない、監督生。僕が悪かった」
「その謝罪は、何に対して?」
「あと先考えずに契約したことと、対価を監督生に押し付けたことだ」
「よろしい。素直に謝れるところ、私は好きよ」

 デュースはちょっと抜けてるところと頭で考えるより先に手が動いてしまうところがあるが、根は素直ないい子。今回はことが大きすぎたせいで監督生も気が済まなかっただけなのだ。
 だから正座(おもり付き)なんていう、正統派なお仕置きを選んだのだし。なお、石を抱いて正座させるタイプの拷問は存在するので別に軽い罰でもなんでもない。恩着せがましい似非慈悲である。
 そんなことお首にも出さず、監督生は宣言する。

「でも、やってしまったことは覆らないので、お仕置きは続行します。1時間は正座ね。そのまま反省してて」
「この程度で許されるなら、お前の気が済むまでやってくれ」
「さすがデュース。往生際の悪いエースと違って潔い」

 時間になったら戻るから、と彼女は談話室をあとにした。
 1人残されたデュースは、少し拍子抜けした気分だった。エースのされた尻叩きに比べれば、ずいぶん手ぬるい「お仕置き」だ。
 デュースは正座の真価を知らなかった。薔薇の王国には正座文化がない。監督生の故郷の文化で、格式のある場や誠意を示すときの座り方だと聞いただけにすぎない。だから、監督生の意図などさっぱり察せられなかった。
 正座に慣れない人間が、1時間も、それもおもり付きで続けていれば、どうなるかは想像に難くない。これは長い前座に過ぎないのだ。

 1時間後、機嫌良く戻ってきた監督生が見たのは、眉根を寄せて痛みに耐えるデュースの姿だった。妙に深い呼吸がなやましげで、お仕置きらしくいい感じに苦しんでいるようだ。
 監督生の姿を見とめたデュースが、お仕置きの終わりを悟ってパッと目を輝かせた。そういうすぐ顔に出てしまうところは単純で可愛らしい。ーー意地悪したくなっちゃうくらいに。

「どう? 慣れないと正座って結構苦しいのよ。実感した?」
「……っああ、さっきから足の感覚がないんだ。これは大丈夫なやつなのか……?」
「1時間程度だし、平気でしょ」

 不安げに眉を下げるものの、お仕置きだと自覚しているためか助けは求めない様は健気でいじらしい。
 昨日から開けてはいけない扉の鍵がゆるゆるな監督生は、嗜虐心がむくむく湧いてくるのを感じた。
 お察しの通り、お仕置きの本番はこれからだ。正座で痺れた足をつつきまわす。エースにした尻叩きに比べれば精神的な苦痛は少ないけれど、日常生活では遭遇しないタイプの苦痛から逃れられない辛さをストレートに味わうことになる。
 もったいぶるような緩慢な動作でおもりを退かした監督生は、手錠はそのままで、えいやとデュースの肩を突き飛ばした。
 普段ならこの程度で体勢を崩すデュースではないが、不自由なままの両腕のせいでバランスが取れず、そのまま倒れ伏してしまった。

「ーーーーっ!」

 おもりから解放され血の巡り始めた両足は、その感覚をも取り戻していた。そんな状態で自分の意思と関係なしに動かしたりなんかしたら、ひとたまりもない。デュースは引き攣った、声にならない悲鳴をあげた。

「い、いきなり何するんだ!」
「何って……お仕置きの準備よ。私、エースによりは怒ってないとは言ったけど、許すとは一言も言ってないわ」
「か、監督生……?」

 不気味にくふくふ笑う監督生に、デュースは顔を青褪めた。
 監督生は怨みを1000年引き摺る日本人である。たとえ努力できる子が好きだとしても、それはそれこれはこれ。友情をたてにあっさりオクタヴィネルに売りやがったことは決して忘れはしないのだ。

「たっぷり反省して、後悔して、罪を身体に刻みつけてね」

 どろりとした欲を瞳に湛えた監督生は、両腕を頭上にまとめうつ伏せに転がしたデュースの上に乗り上げて、小手調べと言わんばかりにつんつん足を突いてみた。
 「ひィ……」と押し殺した悲鳴が漏れる。

「デュースはダメってわかってても、体が先に動いちゃうでしょう? だから、教え込むなら体にしなきゃなって」
「だ、だからって、これはおかしくないか!?」
「うふ。だとしても、デュースは反論できる立場じゃあないでしょう」
「ぅあ……」

 足首の方からつぅーっと指先を滑らす。触れるか触れないかの弱い微かな接触は、厚い冬服越しでも仄かにそれでも確かに感じられた。ひどく怠く動かない足は、微かな振動に晒されるたびに雷を受けたがごとく芯の痺れるような痛みに襲われる。それでも悲鳴などあげるなんてみっともないという意識でもあるのか、必死に声を押し殺している。
 そんなデュースが可哀想で可愛くて、加虐欲がぐんぐん満たされる。とても愉しい。さぞ美味しそうな顔をしていることだろう。そんなこと顔には出さず、監督生は追い討ちに情に訴える小言をこぼす。

「デュースは私のことマブって言うけれど、デュースにとってのマブって都合のいい人のことだったの? 急に異世界に攫われて右も左もわからない時に、友達だって言ってくれて嬉しかったのに……」
「ち、ちがっ……! ああ゛っ」

 口を開いている時を見計らってぐいっと無遠慮に力を入れる。油断した口から噛み殺せなかった呻きがあふれた。
 監督生の言い分にもっともだと思ってしまったからデュースは強く出られない。だってアレは、信頼してくれたマブへの裏切りだ。まったくもって優等生じゃなかった。監督生のなじりがチクチク刺さる。

「違う? でも、仕事を押し付けたのは事実じゃない。ね、咄嗟の行動には本心がでるものよ。優等生を関節に叩き込みなさいな」
「うう゛ぅぅ……」

 昨日花開いたばかりの調教の才が本領を発揮し、繊細かつ大胆な指使いでデュースをずんずん追い詰めていく。とはいえ、所詮は正座由来の痺れ。あれだけこねくり回したのだから、もう痺れなどほとんど残ってないだろう。
 だからと言って監督生が止まってあげる筋合いはかけらもない。ようはお仕置きになればいいのだ。痺れに拘らなくたって。
 ふくらはぎを揺蕩っていた手のひらを、太ももまでつぅーと滑らせる。スラックス越しのその感触に、びくりとデュースの腰が震えた。

「っ! か、監督生、それはダメだ! もう終わりにしよう」
「終わりを決めるのは私。反論できる立場じゃないって言ったでしょう? デュースはまだおとなしく耐えてなさい」

 内腿を撫ぜられて情けない声が喉を揺らした。
 密室で2人きり、己の上に乗り、下半身をいいように弄ぶ少女。相手がマブとはいえ、少女は少女だ。言い逃れようなく破廉恥な格好なのではないか。
 痺れが収まって、少しばかり余裕が出てくると、今のこの体勢がとんでもないものだと気付いてしまったからもうダメだった。
 ついさっきまで気にしてなかった腰の上の感触が、身体を挟む太ももが、妙にやわこく感じられて仕方がない。頭が真っ白で思考がまとまらないどころか、何も考えられない。
 監督生にそういう意図はないのだから、そういう反応をしてはマズイという焦りばかりがつのっていく。
 たしかに監督生にそういう意図は一応ないが、苦痛に耐える泣き顔は見たいと思っているのでトントン。仮にデュースがそういう反応をしてしまっても、心底揶揄われるだけだ。
 ま、そんなこと知るよしもないデュースは必死で動かぬよう監督生の気がすむのを待つほか選択肢が残っていなかった。

 遠慮の欠片もなく蹂躙する監督生の手は、残り少ない痺れを絞り出すかのように力が込められている。痛くて辛いだけのはずなのに、触れられたその場所は熱がこもっていやにあつかった。そういう意図はないとわかっていてもぷるぷる震えそうになる足を気力だけで叱咤して、浮き上がり揺れそうになる腰を気合で押し留め、動かぬよう気付かれぬようじっと息を詰めた。それでも口を手で抑えられないから、唇を噛んで耐えるしかなく、甲斐なく溢れてしまった声は、衣擦れの音しかしない室内ではやけに目立って、監督生にくつくつ笑われた。

「かわいい囀りが漏れてるわよ」
「……っはぁ…………ぁ……ナマエ……、も…やめてくれ……」
「だーめ」

 泣き縋らんばかりのデュースの声音に、監督生は機嫌よく突き落とす。彼は今どんな表情をしているだろうか。湿っぽい声の通り、涙で滲んでいるのだろうか。目元は赤らんでいる? それとも耳まで? ああ、想像するだけでぞくぞくする。
 開けてはいけない扉の鍵は、とうの昔に役目を終えていた。解き放たれた嗜虐心は、調教師の才と共に監督生を蝕んでいく。
 内股へと伸びる手つきに無意識に色が乗る。指先から伝わる震えが支配欲をくすぐった。

「……っ…ふ…………うぅ……だめだ……」
「ダメじゃないダメじゃない」

 デュースはうわ言のようにダメダメと繰り返している。縛めているのは手首だけなのだから、見た目通りの重さでしかない監督生など振り落とそうと思えば簡単にできるだろうに。そういうところが健気で可愛くて、監督生には毒だった。
 うっとり溶けた監督生は、時折り耐えきれずぴくりぴくり揺れるデュースを宥めるようにさする。そしてそれは、完全に逆効果としてデュースを蝕んでいく。

 監督生は開けてはいけない扉の向こう側に呑まれておかしくなっていたし、デュースはデュースで雰囲気に呑まれていろいろ限界だった。
 ここ最近、イソギンチャクとしてこき使われたり、オーバーブロットに巻き込まれたり、なにかと忙しく処理できてなかったのもまずかった。有り体に言えば反応してしまったのだ。それも、後戻りできないレベルで。
 監督生には絶対に気付かれてはいけないのに、微かな刺激すら拾ってしまう身体はイきたいイきたいと主張していて、意識しないとはしたなく腰が揺れてしまう。理性と欲に振り回されたデュースはもう半泣きだ。

 変なところで鈍い耳年増なだけの監督生は、当然ながらデュースが兆しているなんて思いもしない。ただ、湿っぽかっただけの声音に泣きが入ってきたことだけは流石に気付いたから、これはやべえと多少戻ってきた理性で手を止めた。

「デュース、デュース、ごめんね、やりすぎた。泣かせるつもりはなかったの」
「……泣いてない」

 嘘つけと思ったが、武士の情けで追及はしなかった。掠れてるしくぐもってるしでどう考えても常の声音とは違うけれど、呼吸も常より浅いけれど、本人の主張を重んじて、泣いてないことにしておこう。監督生は口先だけ肯定しながら、がちゃごそ手錠を外した。

「ほら手錠も外したからもう起きれるよ。起こしてあげようか」
「だ、だめだ!」

 監督生がデュースの手を引いた瞬間、彼は引き攣った制止の声をあげた。
 これには監督生も思わずぽかん。え、どこにダメな要素があったの? 弄んだ奴の施しは受けないって? いろいろな仮説が脳内を駆け巡るが、残念どれも不正解。

「う……あ、えっと……その、い、今は起き上がれないんだ! しばらくひとりにしてくれないか……?」
「いやそれ放っておいたらダメな奴じゃん」
「ちがっ……待っ……ひぁあっ」

 焦った監督生が無理矢理引き摺ろうとデュースの脇腹に手を突っ込んだ。ら、予想外に甘い声が聞こえて固まってしまった。視線を下ろすと後ろからでもわかるくらい、耳どころか首筋まで真っ赤になっている。

「えーっと……、デュース?」
「うぅ……」

 ここで、もはや呻くかとしかできないデュースの状況を思い出してほしい。監督生に散々なぶられ、性感を叩き込まれ、勃ってしまったのを必死に隠している状態だった。そしてその状態は何も変わっていない。弄ばれた挙句解放を許されなかった欲求が服の下で燻っている。
 つまるところ、ここで立ち上がりなんてしたらイきたいのを必死で我慢して我慢して隠し通したのがパァになってしまうわけで。
 いまだに気を抜くと揺れそうになる腰を叱咤して耐えているところなのだ。どうにか監督生を追い出さないと終わらせられないのはわかっているけれど、そんなもの思いついていたらすでに実行している。尽きる策すらない。そもそも射精欲と羞恥でまともに頭が回らないデュースに上手い案が浮かぶわけがなかった。

 痺れを切らした監督生に無理矢理抱えられ、ことが明るみに出るまで、あとーーーー

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