やだ、敗退するの早すぎ……

 さア始まりました、天下一花婿選手権! 選りすぐりの選手たちがぞくぞく入場してきます!
 初開催である今回の参加資格はどうやら高身長なようです。180cm越えの見目麗しい生徒たちが揃っております。

 なんてふざけていたら、本当にそんな気がしてきた。
 私は求婚者に無理難題を要求するかぐや姫役か? 相手は学生だし、あくまで審査員みたいなものなのだから、ご本家みたいに入手困難なものは要求しないけど。
 でも、シチュエーション的に初対面は確定なんだから、多少の難問はご愛嬌よね? 辛口評価でいきますよ。もちろんクリアできなければ罰ゲームもあります。当然だね。

「あなたたちが花婿希望者ね」

 ざっと参加者たちを見渡す。さすがの美形揃いではあるけれど、求婚は顔で押し通すだけじゃできなくってよ!
 プリンセス・カグヤのつもりで、半前世の言動を全力で引きずり出す。

「まずは、ワイルドだけどお耳がキュートなあなたから」
「俺だな」

 レオナ選手、迷わず前へ出ました。キュートの自覚がおありで?? そんなん加点しちゃうじゃない。
 でもギャップ可愛いポイントだけで優勝できるほど甘くはなくってよ。

「どんな試練だろうと関係ねえ、俺を選ばせてやるよ」
「ふうん、やる気は十分なようね。それで、求婚相手に送る歌はないのかしら? 三十一文字でも五言でも七言でも、なんでもいいから募る会いたさとか、会えた喜びとか、歌ってしかるべきじゃあなくって?」

 会ったことがない相手に求婚するのだから、人伝に聞いただとか、遠くから垣間見ただとかで湧き上がる募る想いを詠むべきでしょう? 平安の昔から恋の始まりは歌を送り合うって相場が決まっているもの。

「は? 何言ってんだお前」
「無粋!!」

 心底意味がわからないという顔にフルスイング。ペナルティは姫の平手打ちです。しばらく動けなくなるよ。魂ふっ飛ばさないだけ優しくない? 500年もののゴーストにしては甘々ですわ。まあ「しばらく」もゴースト基準だからガバだけど。

「まったく。姫相手の求婚っていうシュチュエーションを全然理解してないんだから」

 学園ものじゃないのよ。高貴な姫相手に俺様系なんて、立場がわかってないようね。
 私おもしれー女なんかじゃなくってよ。引く手数多のプリンセス・カグヤ! ちゃんと覚えておくことね!

「さあ、サクサク進めましょう。次はきらめく金の髪が美しいあなた」
「では、君に歌を贈ろう。君の国の歌風でないことは許しておくれ。馴染んだ歌の方が、僕の気持ちが伝わると思うから」

 二番手ヴィル選手、姫の無茶ぶりをものともせず、自分の得意分野に引き寄せました。見事な手腕です。その瑞々しい歌声は、滔々と食堂に響き渡っています。レオナ選手とは雲泥の差! これは勝負あった!!

「溶けてしまいそうなくらい綺麗な歌声だったわ。とっても素敵」
「君が望むのならば何度でも歌おう」
「いつまでも聞いていたいけれど、美辞麗句だけじゃあ姫への求婚には足りないわ」

 口先だけならなんとでも言えるでしょう? これは揺さぶりをかける必要があるね。さあて、キラキラお貴族スマイルはいつまでもつかしら。

「それだけ愛を囁くのだもの、姫のピンチには当然駆けつけてくれるでしょう?」
「もちろんだとも」

 かかったな?

「それじゃああなたは犬を飼っているの? それとも馬? 賢い猫もありかしら?」
「なぜ突然ペットの話を……」
「大根!!」

 困惑滲む綺麗なお顔にフルスイング!

「このアタシが大根ですって!?」
「あら、化けの皮が剥がれたわ。ね、あなた、契約結婚でもするつもりなの? 仮面をかぶるなら死ぬまでかぶり通しなさいよ。思わぬ話題に一瞬口元が引きつったの、私は見逃さなかったわ!」

 これでも生前は陰謀蠢く社交界を渡り歩いていたんだから。
 優しい嘘は騙されたふりをしてあげるのがプリンセスの嗜みだけど、これはダメ。チェンジです。
 いっそ最初から利益重視だと契約を提示してくれた方が誠実ってものじゃない。

「威勢だけは良かったのだけど……残念だわ。じゃ、次いきましょう」
「待て! お前、俺に何をした?」
「文句があって?」
「あるに決まってんだろ。指一本動かせねえんだぞ」
「それに魔法も使えないのよ!」
「敗者がタダで終われると思って? おめでたい人。悔しかったら誰か一人でも合格ラインを越えて見せなさいな」

 合格者が出なくても、ちゃあんと選手権が終わったら解放してあげますよ。それまではおとなしく転がってな敗者ども。
 悪役令嬢がごとく高笑いしたい気分だ。プリンセス・カグヤには似合わないからしないけど。

「さ、敗者のたわ言は聞かなかったことにして……次は白くてもふもふでたくましいあなたの番よ」

 ジャック選手、意気込み新たに進みでました! 寮長たちの敵討ちはできるのか!? 期待の1年生、注目の一戦です。

「あなた、剣術の腕はいかほど? それとも弓術や槍術の方がお得意かしら?」
「武器なんて必要ねえ。俺はこの拳ひとつで……」
「慢心!!」

 自信満々なお顔にフルスイング!

「いくら獣人が頑丈だからって、リーチの差は埋められないのよ? それに、姫を守る手段はいくらあっても足りないわ」

 いくら魔法士だからって、危険にさらされやすい姫を守る武器を持たないのはよろしくないぞ。中距離戦は魔法があるといっても、そればかりじゃブロットのこともあるし、長期戦に対応できないじゃない。

「次! 意志の強そうな鋭い目元が凛々しいあなた」

 セベク選手、堂々たる名乗りで登場! この勢いのまま初金星をあげることができるのか……!?

「音楽はお好き? 楽器は何ができるかしら?」
「教えてやろう。若様の弦楽器の腕はとにかく素晴らしい! チェロの音色は重厚で、若様の神秘さが」
「無神経!!」

 話し足りないお口を無視してフルスイング!

「話の途中だぞ!」
「あなた、本当に求婚に来たの? 若様の話しかしてないじゃない。そんなに若様が好きなら若様と結婚しなさいよ!」

 若様は受け入れてくれないでしょうが!
 そもそもあなたのことを聞いているっていうのに、なんで若様の話になるのよ。あなたの半分は若様でできてるのか??

「もうダメダメじゃない。次、頼りがいのありそうな知的なメガネのあなた」

 トレイ選手、自信なさげにエントリー。しかし3年生に慈悲はありません。最初からアクセル全開で試させていただきます! どこまで食らいつけるのか!?

「どうしてあなたなの……? いくら言葉を重ねても、どうしても一緒になることはできないわ。……お帰りになって」

 悲しそうな伏し目で可憐に背を向ける。シチュエーション・ロミジュリである。
 3年生は無粋と大根といいところなし。さて名誉挽回となるかしら?

「ええっと…………考え直してくれ!」
「あなたには覚悟がおあり? ねえ、全てを捨てて、家を敵に回しても私を選ぶというの? できないならやめてちょうだい。お願い、私を惑わさないでっ」

 なんと返すか。返すか。返せないーー! トレイ選手万事休す!
 おい外野が指示出してるの聞こえてるぞ。お前のことだよ左リーチ。
 ということで……

「朴念仁!!」

 困り顔にフルスイング!

「仮にも求婚なのよ!? 人の言いなりになるなんて人生をなんだと思ってるの?」

 恥を上塗りする前にレフェリー止めました。
 相手が姫な上に敵対関係なんていうモリモリシチュじゃなければ、マシだったかもね。お茶会寮なら話題もあるでしょうし。平手打ちされても困り顔のままなのは高ポイントですよ。運がなかったね、もう少し頑張りましょう。

「さ、次! 愛らしい垂れ目の優しそうなあなた」

 フロイド選手、開幕からすでにやる気がない! 名乗りすらしない! お前はなんでここにいるんだーー!!

「論外!!」

 不機嫌を隠さない顔にフルスイング!

「あなた、何しに来たの? 飽きっぽいにもほどがあるわ」

 姉が応募した某アイドル事務所のオーディションの写真選考を通ってしまって無理矢理二次選考に連れていかれた弟かよ。

「ラスト、にこにこ笑顔で品のあるあなた」
「お近づきのしるしにこちらをお受け取りいただけますか? あなたにお似合いかと思って、僕が摘んで来たのです」

 ジェイド選手、実に恭しく花を捧げます。態度だけなら高得点! はたして、双子の汚名返上はできるのかーー!?

「まあ、綺麗な花ね。ささやかだけど気持ちのこもった手土産があるのは大変結構よ。でも、どこかで見た記憶があるのよね……」

 ゴーストじゃなくて国民候補の子がやらかしてハーツ閥の国民が怒り狂ってたところまでは思い出せるのだけど、何だったっけか。
 私が記憶を巡らせる間に、思わぬ裏切りが発生。

「ジェイド調子良すぎ。それ厄介者の猛毒の花じゃん」
「はい。本来なら素手で触るだけでかぶれるほど毒性が強いはずなんですけどね、ゴーストには聞かないようです」
「物騒!!」

 満足げなしたり顔にフルスイング!

「恋はスリル・ショック・サスペンスとはいうけれど、仕掛ける側になってどうするのよ!」

 これで哀れな敗者が7名。顔のいい男たちが拘束されて床に転がる様は大変背徳的。
 悔しそうに歪んだ顔おいしくいただきました。最高に気分がいいです。
 気分がいいので顔に免じてリップサービスくらいしてあげようじゃあないのさ。

「姫への求婚者としてはどうしようもなく落第だけど、芸人としてなら及第点をあげてもよろしくてよ」


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