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2022/09/09 22:39
オンボロ寮のダンジョンマスター

 テスト前って、どうして無駄なことがしたくなるのだろう。漫画や小説の一気読みだとか、積みドラマの一気見だとか。
 着の身着のままトリップした監督生はどちらも持っていないので、同じくテスト前にやりがちな部屋の掃除に着手してしまった。オンボロ寮、掃除するところだけなら無限にある。日常的に使う場所から優先して掃除していたけれど、オンボロ寮だって元は学生寮。腐るほど部屋があるのである。
 そんな部屋の一つで、監督生は宝石のような何かを見つけた。例の事件でドワーフ鉱山で取ってきたものよりは小さく、マジカルペンについているものよりはだいぶ大きい。かつての学生が研究でもしていた魔法石だったりするのかもしれない。
 卵形のそれを両手で掬い上げたその瞬間、意識が一瞬遠のいた。魔法石らしきそれが監督生に干渉し、知識を、能力を、インストールしていく。
 全てが終わったとき、彼女はオンボロ寮の主になっていた。

 その宝石もどきはダンジョンコアだったのだ。



 ダンジョン。ファンタジーでお約束の冒険者が攻略するアレだ。
 ダンジョンコアを生き物が触れたことにより、オンボロ寮はダンジョン化し、監督生はダンジョンマスターに成り果てた。
 ダンジョンマスターの生命はダンジョンコアそのもの。ソウルジェムではないけれど、これを砕かれれば監督生は死んでしまうし、所有権を乗っ取られても死んでしまう。
 代わりに監督生は、ダンジョンマスターの能力として魔法に近いものが使えるようになった。だけど、本当に危ないとき以外は使わないで、学園長にも秘密にしておくつもりだ。まだダンジョンポイントが貯まっていないからほとんど何もできないし、ここでバレてしまってはもったいないじゃないか。せっかくファンタジーな世界に来たのに魔法の一つも使わないまま帰るなんてつまらない!
 ダンジョンポイントの稼ぎ方も、ダンジョンランクの上げ方も、コアを手にしたときにばっちりインストールされている。
 ダンジョンの中にレベルの高い生き物が存在しているだけで、ポイントは少しずつ貯まっていく。それ以外にも強く感情が動くと加点されるようだ。テスト明けにマブたちとオールした翌朝、初めて4桁になっていたから間違いない。
 死んだ生き物を吸収するのが一番効率がいいので、とりあえず寮内の虫は一層したけれど、これで手詰まりだ。

 そんなときに巻き込まれたイソギンチャク事件。勘弁してくれ。あれよあれよと大事な我が身、オンボロ寮を差し押さえられてしまった。
 ああ、ダンジョンマスターなのに家なき子とはいかに。
 そう、監督生はダンジョンマスターのままなのだ。さすがのヤクザヴィネルも、ダンジョンマスターなどというトンチキなものになっているとは予想だにしなかったらしい。さもありなん。
 差し押さえられたとはいえ、敵は監督生の腹の中にいるも同然。ポイントさえ貯まればどうにもできる。それに、正攻法で無理ならダンジョンマスターとして居住権だけでも奪い返そう。
 仮宿のサバナクローでそう決意を固めて監督生は眠りについた。
 翌朝、強制参加のマジフト練習でくたくたになった状態で、ふとポイントを確認してしたらあまりの数字に思わず二度見した。見間違いじゃなかった。
 副寮長級しゅごい……。たった2人でマブ10人分……。
 貸出しという形でなら使わせてもいいんじゃないかと心が揺れるレベル。こんなの見たことない。
 だがしかし、監督生は安住の地を取り戻さなければならない。毎日朝からマジフトなんてやってらんねーのである。
 リーチ兄弟によりもたらされたポイントでオクタヴィネルをギャフンと言わせてやる。これぞエコ。ダンマス的には好循環。できれば戦場は寮内なら感情も喰えて一石二鳥。仕掛けにかかるその時まで、しっかり礎になってくれ。監督生もしっかりNRCに染まっているのである。




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