嫌悪感と | ナノ


「鬼灯ちゃんって白澤くんと仲いいの?」
「は?」


 テスト当日の貴重な休み時間。クラスの女子生徒が突然訊ねて来た。
 女たらしでどうしようもない白澤ではあるが、顔は整っており女子に対して態度が柔らかでおもしろく、一緒にいて安心できるらしい。
 鬼灯から見れば顔は普通で性格は最悪である。一緒にいるなんていうことが考えられない。
 しかし女子生徒はどうやら白澤のことが気になっているようで執拗に白澤について聞き、冒頭に戻る。


「仲良くありませんし、大体私とあいつの関係性なんて貴方には関係ないでしょう」
「関係あるって。白澤くんって固定した女の子作らないんだよ?」
「……」


 それはそうだろう、と鬼灯は心のうちで頷いた。
 あの女たらしは性別が女であれば誰かれ構わず甘言を囁いている。
 例外的に自分にだけは苦い言葉しか言えないようだが。
 というより、この女子生徒からは鬼灯が白澤の“固定した女の子”にでも見えているのだろうか。


「とにかく、仲は良くありません。むしろ大嫌いです」
「よかったぁー」


 心底安心したような声をあげて、女子生徒は自分のグループへと戻って行く。
 そんなに不安であったのだろうか。傍目から見れば肩を並べて歩いている時点でそう思うのかもしれない。けれど、交わされている言葉は粗雑なものばかりだ。甘い言葉も特別な感情もない。
 あるのは、心の淵から湧きだす嫌悪だけだ。


◆◇◆


 一方、白澤もテスト当日と鬼灯を追い抜かすために珍しく教科書に視線を落としていた。と言ってもその視線は忙しない。他ごとを考えているように落ち着きがなかった。
 それは先ほどクラスメイトに言われた言葉が原因だった。
『最近、鬼灯って子と仲良いね』
 と。仲が良いつもりはないし、嫌いだが反応がおもしろいだけだ。
 どの女の子も平等に好きだから固定した人は作らない。いや、作れないと言ったほうが正しいか。
 女子生徒にそう言われたのだから、もしかしたら鬼灯が固定した女の子だとでも思っているのかもしれない。
 その可能性は全くないのだが。理由は単純だ。嫌いだから。
 いや、それならわざわざ鬼灯に構う必要はない。
 構ってしまう理由を、苦い言葉を紡いでしまう理由を、白澤は知っているかもしれない。
 何度となく体験したことがある、けれど手に入れられていない、感情。
 しかしそれに今更気づいたところでどうなると言うのだろう。きっと、いつものように少ししたら離れてしまう。そんなのはごめんだった。自分の軽薄さ故のところもあるかもしれないが、それに悲しまない相手も同じなのだろう。自分も。
 だから、気づかないフリをしているのかもしれない。


「ないない。うん」


 自分に言い聞かせるように呟いて、やっと文字の羅列を読み始める白澤だった。



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