似たもの同士 | ナノ

 教室からは騒ぐ声が聞こえ、廊下には幾人もの生徒が集まってやはり声を漏らしていた。
 集団から抜け出し、静かな図書館へ鬼灯は一人図書館へと向かう。この前は顔もみたくない奴と来たものだから落ち着いて読書ができなかった。
 今日は話しかけられず、静かに図書館へと来ることができ鬼灯は安心感のようなものを覚えた。
 椅子へと腰をかけ、読みかけだった本に目を通す。今日は図書館にあまり人はおらず司書の先生がパソコンを打つ音が少し響いているだけ。
 人と話すことが時折億劫になることがあった。もとからそんなに喋るタイプではないし、馬鹿な話を聞くというのは案外骨が折れるものだ。
 それに比べ本には熟考された言葉が淡々と並べられており読んでいて落ち着くのだ。騒がしいあの奴とは違い──。
 とここで鬼灯は考えを巡らせることをやめた。やっと落ち着く空間に足を運んだというのに、目ざわりな奴のことを思い出す必要はない。
 苛立ちが少しこみ上げ、次に奴と会ったら蹴ってやろう。そう決めると鬼灯はまた本へと視線を移し、本の世界へと没頭するのだった。



◆◇◆



 からかい半分に白澤は図書館へと足を運んでいた。
 本を返すついでに彼女をからかってやろうと。いつもは図書館に行く途中の彼女に話しかけるのだが、たまには良いだろう。
 驚いてまたこいつか、という悪態のこもった表情を見るのはおもしろい。本棚の奥に隠れて彼女が来るのを今か今かと待っていた。
 けれど、彼女が来る様子はなく静寂ばかりが図書館に訪れている。
 静かな空気と図書館独特の落ち着いた雰囲気。そして普段の寝不足がたたって、白澤はうつらうつらと眠ってしまった。



「っ?!」


 突然の痛みに白澤は目を覚ます。
 上を仰げば待っていた彼女がしてやったりという表情で白澤を見下ろしている。


「すっきりしました」
「はぁ?! ふざけんな!」


 では、とくるりと踵を返し彼女の背中は小さくなっていく。
 よりにもよって急所を蹴られた。しかも潰す勢いで。
 痛みに急所を押さえて、白澤は可愛くないやつと毒づくのだった。



◆◇◆



 快活な足取りで鬼灯は廊下を歩いていた。
 まさか思っていたことがすぐに実現されるとは思わなかった。
 しかし、と彼女は考える。


 彼に執着する必要がどこにあるのかと。


 いや、執着しているのではない。
 嫌いだからこそ悪態をつき、痛みを味あわせてやろうというものだ。
 これ以上奴について考えるのは時間が惜しいと、彼女は次の授業が移動教室であったことを思い出し進める足を速めるのだった。


 ――ぢりりと燃える心の火に息を吹きかけて。


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