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やわくとろけて


(アポニメ20話ありがとう)

ぺたぺたと、がっしりとついた筋肉を惜しみなく触れさせてもらいながら、思わず神妙な顔つきになってしまう。
されるがまま、私のしたいようにさせてくれているシロウさんはその神妙な顔つきに思わず吹き出しながら、「どうされました?」なんて。上半身だけ肌蹴させたまま腰掛けたベッドふちで微笑んで見せる。が、今はその笑顔にとろけている場合ではなく、むしろ実感を改めて認識することに精一杯で、いえ、と。失礼ながら上の空で返しながらも、絶えず触れる。

「シロウさんは本当に、着痩せされる方だなぁと思いまして…」
「…そう熱心に見て言われると、さすがに恥ずかしいですね」

くすぐったそうにシロウさんがこぼすけれども、柔和な笑顔を浮かべる青年の服の下が、実は脱ぐととても筋骨隆々たる逞しい体つきをしている、というのは。やはりなかなか衝撃的である。
長く寝食を共にしているとは言え、何度だってその度に驚いてしまう。その肌にある、おびただしい数の傷跡と火傷痕、にも。
とは、いえ。やはりイメージの違いというか、失礼とは思いながらも意外だと口にしてしまいそうになる逞しい体を眺めながら、包んだシーツから腕だけを出し自身の弱々しい細腕と比べてやはり凄いと感嘆する。たとえるなら、丸太と木の棒くらい差がある。
そりゃあ、いくら抵抗し窘めたところでこの腕では、このベッドの反発力のがまだいい勝負が出来るだろう。と今日も今日とてやや強引にほだされたことを一人思い出し、咳払いをする。
両手でがっしりとした腕の、しなやかな筋肉の弾力を手のひらいっぱいにつかって堪能していると、シロウさんが空いている手のほうで汗で張り付いたままの私の前髪を払い、目に掛からぬよう耳にかけてくださる。おかげで少し不快感が消えた。

「華奢な体つきの男のほうが、よろしかったですか?」
「いえ、全然っ。そもそも、そういったことは特には気にしませんので」
「ふふ、よかった。さすがにサーヴァントの身では、筋肉量を落とすというのは難儀ですから」

指の背でするりと私の頬を撫でながら安堵の息をつくので、大丈夫ですよともう一度笑いかける。まったくもってそんなの不要の心配だし、そも私が華奢の方が好みだと言った場合は落とすことを検討しようとするシロウさんの、己の願い以外はわりかし適当なところに少し悩んでしまう。シロウさん、もっと主体性を持っていいのですよ。いえ、そうじゃなくて。いえ持って頂きたいのは確かですがそういう話しじゃなく、私が言いたいのはそういうことではなく。

悶々としながら包んだシーツがこぼれ落ちないようおさえ、ひしっとシロウさんの腕に自身の腕を絡めて抱きつくと「やはり浴室までお連れしましょうか?」と、見当違いな労りの声を掛けてくださるシロウさんの言葉に首を振って見せ、ついと視線を落とす。

「…シロウさんの逞しいお体は、大変心臓によろしくないです」
「…と、いいますと?」
「カッコよくて、ずるくて。今のままのシロウさんで、充分で。…大好き、ってことです」

朗らかに微笑む好青年のようでいて、夜更けに私にだけ見せるその体つきのギャップに肌を重ねる度に現金にも胸が締め付けられるのだ。
ここにいる他の男性サーヴァントたちの体つきを見たところで、彫刻のように美しいとは思うものの。だからといって今も昔も興味を引かれたことはなく、胸がときめくほど目を奪われたことなどない。
けれどシロウさんは、違うのだ。世界で一番好きな人の、そういう一面というだけで。途端に弱くなってしまうのだ。普通なら見逃してしまうほどの些細なところでさえ、愛おしく思うほどに。

かれこれ十年来の長い付き合いではあるが、初めて口にした内情にシロウさんはきょとん、と目を瞬く。
瞬き、それからふ、と穏やかに笑って私の唇に口付けを贈ると「あまりよろしい見た目じゃないですよ」とたしなめられるが、声色だけは弾んでいるのが隠しきれておらず。思わずへらりと頬が緩む。
それにそれを言うならば、とシロウさんは口にするや否や。肌を隠していたシーツを解かれ、背からベッドの上へと雪崩落とすと、晒された素肌に指先がくるりと滑る。「なまえさんも、充分ずるいですよ」

「色香も知らぬ幼気な男を、ここまで陥落させたのですから」
「…今ではすっかり、事あるごとに抱き潰すようになってしまいましたものね」
「ええ、それはもう。つい加減を忘れてしまうくらいに」

意地悪な言葉など気にもならないと、目を細めて見つめられる。
腕を抱く私をやさしく、けれどもいとも簡単に抱き上げると。向かい合うように自身の膝に載せまたぴったりと肌を寄せる。
「あったかいです」と布が擦れる音に掻き消えそうな声に、もう、なんて呆れとも喜びとも知れぬ声が思わずこぼれ。シロウさんの大きな背中に腕を回し、胸板に頬を寄せ目を閉じた。

「なまえさんは、こんな気味の悪い体でも。好いてくださるのですね」

ふと。ぽつりと、先程の声よりも空気に溶けて消えてしまいそうな声に目を点にする。それから、何を今更、なんて。ちょっぴり苦笑して。
少しだけ弱気な色を覗かせるシロウさんに、目一杯笑って見せた。

「当たり前じゃないですか。私、たとえシロウさんがガリガリでも。ぽっちゃりでも。シロウさん自身が好きなんです。…その傷も、痕も。ぜんぶ」

どんなところもあますところなく好きなのだから、安心して私に愛されてください。
そう宣言すれば、シロウさんは私の顔を呆けたまま見つめ。それからくすくすと笑って「ありがとうございます」と、穏やかに。いつもの慈悲深さと、清廉さと。それから少年らしい笑みを見せてくれた。
私も笑みを返し、シロウさんの背をそっと撫でる。私のような華奢な女体とは違う、体格のいい男性の体。鋼のように逞しくて、筋張っているのに、包んでくれる腕のぬくもりがやさしくて。ああ、本当に。どうしたらいいのだろうか。どうしたいのだろうか。これ以上好きにさせて。本当、ずるい人だ。

なまえさん、と。やさしい声とともにやわらかく口付けの雨が降ってくる。
応えるように何度も触れ、やわく食み、そうして離れては。また口付けを交わして。互いに胸の中に灯るやさしい気持ちを一緒に味わうように、どこもかしこもぴったりと身体をくっつけていると。まるで互いの心が通っているような、そんな錯覚がした。
ちゅ、ちゅと絶えず唇を味わっていると、シロウさんの瞳がとろりと熱でとろけ始め、私の身体をやさしく抱く指先がするりするりと蠢き始める。

「なまえさん」
「どうしました、シロウさん」
「もう一度、なまえさんの身体に触れたいです」
「ふふ。また食べたくなっちゃったんですか」
「ええ。どうにも、たまらなくて」

かぷりと首筋を噛まれ、指先が意思を持って這う。もはや許可をとるまでもなく決まっていることに、今さら驚きはしない。すぐにお風呂に行かず、ベッドの上でうだうだし始めた時点でなんとなくこのルートを迎えることは、わかっていたことだ。

それに。
シロウさんは飛び抜けてプロポーションがいい訳でもない、普通の身体の私を抱いても面白いのだろうかと常々思っているところに。そうやって欲しいと声に出して言われると、やはり嬉しいもので。
やっぱり、どんなところも好きでたまらないと思っているのはお互い様で。私もほんのちょっぴり、小さな不安の芽を抱えていたということだ。

「今日は私も、シロウさんの身体。美味しくいただいちゃいますからね」
「ええ、どうぞ。…その前に私が、骨抜きにしてさしあげます」

張り切る私に、シロウさんはいつものように笑みを浮かべながらも、獣じみた笑いも含んでいて。やっぱりずるいなぁ、なんて。そう笑いながら、負けじとシロウさんの手をとり、指先をやわく噛んだ。