見る目がないのォ


私の話を聞き終えて頬杖をついた自来也先生が言った言葉に私はなんの異論もできなかった。

好きだった男と別れた。簡単に言えばその一言で済む。けれども実際はそんな単純なことではなく、付き合っていた男に浮気が発覚。しかも浮気していたのは私で向こうが本命だと鼻で笑われた。

本当に好きだったのだ。付き合っていた時は優しく、私しかいないと言ったのも彼だ。騙されていたのは私の方で、悪いのは彼なのだけれど、そんな彼に向こうの女は本気らしく、泥棒猫、性悪女などと私に罵声の言葉を浴びせてきた。

本当なら誰にも言えない事のだけれど、自分一人で抱えるにはいささか厳しかったので、私に何かあったと気づいてくれた自来也先生に話してみれば、冒頭のセリフをいただいた。ぐうの音も出ない。


「お主はその男のどこに惚れとったんだ?」
「それは…顔もだし、中身ももちろん好きでしたよ。この人になら尽くしていいかなと思ったし、一緒にいたかったし」
「ほォ。他には?」
「優しい言葉もかけてくれたし、好きだって言ってくれたし」
「はぁ…青いのォ」


私の返答を聞いた自来也様は深くため息をつき、「良いか」と姿勢を改めた。


「惚れた腫れたと騒ぐのは勝手だ。お主の人生はお主の好きに生きたらいい。だがな」
「...はい」
「お主はその男しかおらんと今は思うとるだろうが、世間にはいろんなタイプの男がいる。その男のように浮気しながらいろんな女に好きだ愛してると宣える男も、一人の女しか愛せん男も、ワシのように何もせんでも女が寄ってくるような色気ムンムンのダンディなモテ男もな」
「……」
「...そんなじっとりとした目で見るな。話を戻すぞ。要はお主は今、視野が狭いんだ」
「視野が狭い?」
「そうだ。付き合っていた期間はその男しか見とらんかったわけで、それが終わったところだから他に男がいることを忘れておる。周りをよく見てみい」


先生の言葉に倣って辺りを見回してみると、たしかにいろんな人がいる。煙草を燻らしながら歩く人、からかってくる生徒をあしらいながら歩く人。様々だ。なるほどたしかに、いろんな人がいる。彼だけが、男じゃないんだ。

自分の視野がいかに狭まっていたか思い知る私に、先生は大袈裟に息を吐き、再び頬杖をついた。


「ようやくわかったようだな。全く、世話のやける生徒だのォ」
「ははは...。先生、相談に乗ってくれてありがとうございました。私、ちょっと大人になれた気がします!」
「なーにを言うとる。ワシにとったらまだまだ子供!甘えられる存在があるならとことん甘えたらいい。またいつでもワシところへ来いのォ」
「はい!ありがとうございました!」


新しい出会いもあるかもしれない。もしかしたら、彼よりもいい人が。もし見つからなかったら、その時はまた先生に相談しよう。

ぺこりと先生に頭を下げ、走りながらいろんな人を見た。いい人、見つけるぞ!


「...ワシも、見る目がないのォ






私の背を見ながらそう呟いた先生の声は、私の耳に届かなかった。

fin.

After Word

濡羽様からのリクエストで、自来也「見る目がないのォ」でした。濡羽様、リクエストありがとうございます!




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -