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――ユウナが里を抜けた



カカシからそんな言葉を聞いたとき嘘だと思った。ユウナがそんなことするはずねぇと。
けど、呆然と心ここに在らずなカカシの顔を見てるとそれが嘘だなんて思わせてはくれなくてよ。


「…嘘じゃ、ねぇんだよな」
「…俺もそう思いたいよ」


そう言いながらすとん、と待機所のソファに力なく座り込むカカシを見て顔が歪んだ。
そして俺の中にあるバラバラのピースみてぇなもんがガチッとはまった気がした。


こないだ突然俺を呼び出して親父のことを謝ったユウナ。
無理に作った笑顔でありがとう、だとか幸せになれ、なんて言ってきた。あれからもう1週間近く経つがユウナとは会ってねぇ。今から思うとあいつはその頃にはもう里を抜ける気だったんじゃねぇかってよ。だからわざわざ俺を呼び出してあんなこと言いやがったんだとあの時気付いてやれなかった自分に腹が立って、同時に情けなかった。

そんなことを考えていると、隣にいた紅がついに泣き崩れた。


「紅…、」
「…なんで、なんでユウナはいつも自分ひとりで勝手に決めちゃうのよ。私ってそんなに頼りないの…」


床にぺたんと座って顔を手で覆って声を押し殺して泣く紅。
そんな様子を見りゃユウナはなにも言わずに行ったらしいな。あいつがそれを匂わすようなことを言えば気づかねぇこいつじゃねぇ。ユウナのやつ、それをわかっててこいつには言わなかったんだな。ったく相変わらず変なとこで勘のいい奴だっつうの。


ユウナ、お前はいつもそうだよな。
綱手様に弟子入りして里を出たときもそうだった。カカシには言ったみてぇだが俺たちには何もなし。後からカカシに聞いて紅が「なんで教えてくれなかったのよ!」ってカカシを殴ってたっけか。

まぁ、だからっつーか。俺の知ってるお前は自分の信念を曲げるような奴じゃねぇ。


『大切なものを守りたい』


それがお前の火の意志だもんな。


「…俺たちがここでうじうじしててもしかたねぇだろ」


なら、今の俺に出来ることはこいつらの尻を叩くことだと思った。バカなあいつだが、バカだからこそ誰よりも真っ直ぐ里や仲間のことを想ってたからよ。


「あいつが俺たちを裏切ると思うか」


今の俺たちに出来ることはあいつを信じることだ。
仲間である俺たちがあいつを信じてやんねぇと本当にあいつの帰る場所がなくなっちまう。


「お前らなら知ってるはずだぞ。あいつがどんだけ里や仲間のことを想ってるかってよ」
「…アスマ」
「カカシ。つれぇかもしんねぇけど、あいつはお前が自分を責めることなんて望んじゃいねぇんじゃねぇか」
「…」
「あいつのこと一番近くで見て分かってんのはお前だろうが。そのお前が信じてやんねぇでどうすんだよ」


あいつが何を思って里を抜けたのか俺は知らねぇ。
けどあいつが考えなしにそんなことする奴じゃねぇって知ってるのも俺だ。だから俺はあいつを信じる。


「…アスマ」
「あ?」
「…ありがとな」


そう言ってふっ、と笑ったカカシの顔は覚悟を決めた顔で。
長いことユウナだけを想ってきたがゆえに受け入れられなかったんだろうが、もう大丈夫だとそう思った。




だから、信じる




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