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「もういい」


そう言い残して去っていく背中を眺める私の耳に最後に届いたのは、バタンと響く玄関扉の無機質な音だった。

言うのも憚られるくらいのくだらない理由で、お互いの久方ぶりの休みは幕を下ろした。本当は喧嘩なんてしたくない。上忍というのはとてつもなく忙しく、月に数度の休みはなかなか合うこともない。だからこそ、たまに被った休日はどちらからともなく会うということになっていた。今日もそんな貴重な日。

けれどお互いに疲れが溜まっていたのか、いつもなら笑って流せる話につっかかり、これ以上空気が険悪になるのは嫌だなと思う自分がいる一方で、一度開いてしまった口を閉じることもできなかった。感情が昂って怒鳴る私に、カカシは至極冷めた視線を向け、冒頭の言葉と共に去っていった。


「……なんでなんだろ、本当」


ずるずるとソファに腰を下ろし、途端に自己嫌悪に襲われる。
なんで私は、ああいう風に可愛げのないことしか言えないんだろう。本当なら今も飛び出して追いかけて、ごめんと一言言えばカカシは許してくれるとわかってるのに。長年かけて拗らせてしまったこの性格を直すすべを、今更持ち合わせてはいなかった。

いつもこうだ。喧嘩した後一人になると自己嫌悪に陥り、頭が冷えた数日後に恥をしのんでカカシに頭を下げる。そんな私をカカシは笑って許してくれて、優しく頭を撫でてくれる。その繰り返しをもう何度してきただろう。

わかってるんだ、こんなことをするのは時間の無駄だと。けれど一度ついてしまった火はなかなか消せないわけで。

そろそろカカシも愛想を尽かしている頃だろう。何度となく私につっかかられ、せっかくの休日を気分悪く過ごさせてしまっている。それを申し訳なく思いなんとも言えない感情を抱きつつ、それでもカカシに別れを告げることは出来ない。

そう、私はカカシが好きなんだ。
これ以上ないほど、カカシ以上の人には出会えないという根拠のない確信を抱くほどに。

だから、こんな私と付き合うことがカカシにとってなんの利点もないことだと頭では理解しつつ、カカシを解放してあげることが出来ない。ずるずると引き摺り、なし崩し的に関係を続けている。それはひとえに、私がカカシのことを離したくないと思っているからだ。


「ほんと、ごめん」


抱えた膝に顔を埋めた。
一人だとこんなにも素直に気持ちを言葉にできるのに、カカシを前にするとその勇気はどこかへとなりを潜める。愛想も何もないこんな私に、なぜカカシは別れを告げないんだろうと不思議にすら思うほど。

けれど私はきっと、もし別れを告げられたとしても、人生をかけて引き止めるに違いない。ごめんなさい、許してほしいと。なりふり構わず縋り付くに決まっている。それほどまでにカカシの隣は居心地が良く、私が私でいられる数少ない場所なのだ。


「……謝ろう」


たしか明日はカカシも私も夕方までだったはず。会ったらすぐに謝ろう。そうしなければきっと後悔する。



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