02





「…まずいな、これ」


シカマル先輩とのツーマンセル。密書の運搬でBランクだったはずの帰り道。
無事密書を届けて木ノ葉まであと数キロって所で出くわした抜け忍の集団。六人ほどのその集団は手練れも手練れ。全員が上忍クラス。そして運の悪いことに先輩と引き剥がされてしまった。

身体中が痛い。至る所から血が出てる。
敵忍はまだ余裕らしく、ニヤニヤしながらこっち見てるし。こちとら体力もチャクラも残り少ない。
万事休す、か。


…いや、こんなところで諦めてたまるか。
なんのために今まで修行してきたんだ。
あの血が滲むような努力はなんのためだ。

マイナスへと向かう思考を振り切り、印を結ぶ。


「…風遁・真空大玉!!」


どうにか隙を見つけて風の玉を吹き出せばぶっ飛んでいく敵忍二人。
この術、無理してでも会得してよかった。敵忍が木にぶち当たって気絶したのを確認して回収の式を飛ばし先輩の方へと急ぐ。

後方支援型の先輩にこの状況は厳しすぎる。でも先輩は上忍でしかも最高に頭がキレる。どうにか打開策を考えているだろう。とは思いつつも不安が拭えないわけで。

間に合ってくれ…。
はやる気持ちを抑えながら、痛む身体に鞭打って枝を蹴る。どうやら相当離されたらしい。


しばらく森を走ると感じた先輩のチャクラ。
額に汗を滲ませながら敵忍三人の影を縛る先輩の隣に降り立つ。まず先輩が無事なことに身体に入ってた力が抜けた。先輩の影は徐々に敵忍の体を這って首を絞める。敵忍が泡を吹いて倒れたのを確認してふーっと安堵の息を吐くと、先輩は額の汗を拭いながらにっ、と挑戦的な笑顔を浮かべた。


「早かったじゃねぇか」
「ご覧の通り手こずりましたけどね」
「そりゃ、このレベルの忍だ。中忍のお前じゃ手こずらねぇ方が無理な話だな」
「…っ」


やっぱりな…。まだまだ先輩は遠いや。
会得難易度の高い術をいくら会得したところでたかが知れてる。まだまだだ。まだまだ修行が足りない。

すると先輩は「だが、」って言葉と一緒に私の頭に手を置いた。


「…よく頑張った。お前、強くなったな」
「!」


そんな言葉に驚いて先輩を見ると、照れ臭そうに頬をかきながら、でも今まで見たことないような優しい笑顔を浮かべてた。

ああ。やっぱりずるいよ、この人は。
これじゃいつまでたっても諦められやしないや。

諦めるどころか日に日に先輩への思いは膨らむ一方で。好きって気持ちが私の中でどんどん大きくなっていく。日頃はつっけんどんなくせにこういうときに優しい言葉をくれる。
やっぱり先輩、あんたはずるいよ。


すると先輩の背後に黒光りするものが見えた。


考えるより先に先輩の腕を引っ張り入れ替わる。途端に背中に走る鋭い痛みに歪む顔に気づかないふりをしながら印を結ぶ。


「風遁・真空玉!!」


振り返って風の玉をぶつければ先ほど同様ぶっ飛ぶ敵忍。
倒れた敵忍にホッとしたらグラッと視界が歪んだ。

あぁ、やっぱまだまだだ。
身体が痺れていく。毒つきクナイだったか。さっきチャクラを練ったせいで余計に毒が回ったらしい。

本当に、私はここまでなのかな。
まだ先輩に気持ち伝えてないのになぁ。

やっぱり先輩の背中は遠かった。


「マリナ!!」


来るはずの衝撃は来なくて、代わりに温かいものに包まれる感覚。
閉じようとする瞼をこじ開けると、白む視界に先輩の顔が見えた。


「…先輩、」
「バカ!なんで庇った!」
「…はは、わかりません…。身体が勝手に動いちゃって…」


先輩の顔が悲しそうにつらそうに歪んでる。
やっぱり優しいなぁ先輩は。

だけど、先輩のそんな顔は見たくない。
私が見たいのは、さっきみたいな優しい顔だから。そんな顔しないで、先輩。
そう思いながら先輩の頬に手を伸ばす。


「…やっと、ちょっとは追いつけたかな」
「!」
「…なら、伝えてもいいですよね…」


途切れ途切れになりながらも必死に言葉を絞り出す。

どうせ最期なら、今ここで伝えたい。
わがままな後輩でごめんね、先輩。


「おいもう喋ん…」
「先輩」
「!」
「大好きでした」


最期に笑顔で言えた。これでもう思い残すことはない。
迷惑だったかな。ただの後輩に死に際に告白されてさ。でもここで言わなきゃ絶対後悔してたから。

ごめんね、先輩。本当に大好きでした。


薄れていく意識の中で、私の名前を何度も呼ぶ先輩の声が聞こえた気がした。



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