03




「――続きまして、新婦様よりお父様への感謝のお手紙です」


式も終盤に差し掛かって、ヒナタちゃんからヒアシさんへの手紙が読み上げられる。
ときおり言葉に詰まりながらも、しっかりと感謝の言葉を伝えるヒナタちゃんの隣では、ぎゅっとマイクを握り締めながら嗚咽を堪えるナルトの姿があった。
なんだか微笑ましくて、そして感動する気持ちになりながらも、その姿にくすりと笑ってしまった。


「――新婦様、ありがとうございました。続きまして、本日は新郎様たっての希望により…」
「?」
「新郎様からご両親にも、感謝の言葉がございます」
「!」


そっか。ミナト先生とクシナさんに、手紙を書いたんだ。
先生たち、喜んでるだろうなあ。ナルトが大きくなって、そばにいられなかった自分たちに産んでくれた感謝の言葉を伝える。
…ミナト先生、クシナさん。ナルトは、お二人の気持ちもちゃんとわかって、しっかり大きくなりましたよ。

そんなことを思いながら、ミナト先生とクシナさんが照れくさそうに、でも嬉しそうに微笑んで涙を浮かべる姿を想像したら、なんだか私の心まで温かくなるから不思議だ。


「マリナ様、こちらへどうぞ」
「え?私ですか?」
「ええ。イルカ様も、こちらへお願いいたします」
「え?」


ふと私たちのテーブルのそばに現れた係の人に誘導されるがまま、気づけば私とイルカさんは、さっきまでヒアシさんがいた場所に立っていて。
その正面には、すこしだけ緊張したような表情で私たちを見つけるナルトがいて。


「ごめんマリナの姉ちゃん、イルカ先生。俺からのちょっとしたサプライズだってばよ」
「ナルト…」
「…お前ってやつは」


にっ、と笑ったその表情は、初めて会ったあの日と全く変わらない。だけどやっぱり逞しくなったその姿に、早くも涙腺が緩んだ気がした。
ナルトは、他のみんながいる方に目線を変えて、こう、言葉を紡いだ。


「みんなはあんまり知らねぇかもしんねぇんだけど、ここにいるマリナの姉ちゃんとイルカ先生は俺の両親みたいな人なんだ。本当の父ちゃんと母ちゃんは別にいっけど、今日はこの二人にまず俺の気持ちを伝えさせてくれ」


そう言ったナルトは、ひとつ息を吐いて、イルカ先生をまっすぐ見つめた。


「イルカ先生」
「…なんだ?」
「イルカ先生には、昔っから迷惑ばっかかけちまったし、何度も怒られたし怒鳴られたし、拳骨も食らったよな」
「…あぁ」


そんなナルトの言葉に、昔の二人を知る人たちはくすりと笑って、会場は温かい空気に包まれる。
「…でも、」そんな言葉が聞こえたら、会場は続きを待つように静寂に戻った。


「俺ってば生まれたときから父ちゃんはいなかったけど、イルカ先生のことを父ちゃんみてぇにずっと思ってた」
「…ナルト」
「ずっと寂しかった俺に、初めてイルカ先生がおごってくれたラーメンの味は一生忘れねぇ。俺のことを想って言ってくれた先生の言葉も忘れねぇ」
「…っ」
「…イルカ先生。いつもいつも、俺のことをちゃんと見て叱ってくれて、本当にありがとうございました」


慣れない敬語を使って深く頭を下げるナルトに、イルカさんは唇をかみしめて顔を伏せる。そんな二人の姿を見た会場からは、所々鼻を啜る音が聞こえた。
ゆっくりと頭を上げてイルカ先生の姿を見たナルトは、今度はまっすぐに私を見た。


「マリナの姉ちゃん」
「…はい」
「姉ちゃんは、俺に初めて友達だって言ってくれたよな。俺ってば姉ちゃんがいたから、ひとりじゃねぇと思えたんだ」
「…」
「姉ちゃんと一緒に修行して、姉ちゃんが作ってくれた野菜いっぱいの飯食ってたらさ、俺に母ちゃんがいたらこんな感じなのかなぁって、勝手にずっと思ってた」
「…うん」
「…だから、姉ちゃんが里から出てったって聞いた時、俺ってば本当は寂しかった」
「…っ」
「もっと姉ちゃんと一緒にいたかったって思った。もっと姉ちゃんに、俺が強くなってく姿を近くで見ててほしいと思ったんだってばよ」
「…」


そう言いながらも私を真っすぐ見つめたままのナルトに、言葉が詰まった。

私は、ナルトが本当につらいときに、そばにいてあげられなかった。サスケが里を抜けたときも、師である自来也様が亡くなったときも。ナルトがやっとの思いで手繰り寄せた繋がりが切れそうになった時、私はこの子のそばにはいなかった。

“あんたはひとりじゃない”

まだ小さくて、ひとり孤独に泣いてたナルトにそう言葉をかけておいて、私はこの子の前から姿を消した。なんて無責任だったんだろう、なんて罪なことをしたんだろう。孤独のつらさや、近くに誰かがいてくれる嬉しさは、私が一番知ってるはずだったのに。そう思えば、過去の自分へのやるせなさに胸が押しつぶされたような気がした。


「…でもさ、」
「!」


その途端、少しばかり優しく微笑んだナルトに、思わず目を見張った。


「そんでもやっぱ俺ってば、マリナの姉ちゃんにも、“ありがとう”って言葉しか浮かんでこねぇんだ」
「…ナルト、」
「姉ちゃんがいねぇ間にいろんなことがあった。泣いたこともあったし、挫けそうになったこともあった」
「…」
「そんでも俺が足を止めずに前を向いていられたのは、マリナの姉ちゃんが俺に、“ひとりじゃない”って教えてくれたからなんだってばよ」
「…っ」


そんな、いつになく優しく温かいナルトの声に、ついに私の目からは大粒の涙がいくつも零れる。


「マリナの姉ちゃん」
「…」
「俺のことを認めてくれて、友達だって言ってくれて、俺の夢をずっとずっと応援してくれて……本当にありがとうございました」
「…っ」


そう言って深く深く頭を下げるナルトに、私はついに両手で顔を覆って泣いた。

立派になったね、ナルト。本当に大きくなった。
あんたならきっと、ミナト先生に負けないくらいの火影になれる。
必ず、夢は叶うよ。

とめどない涙を流しながら、そんな風に思った。




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