「こんにちわ、マリナさん」
「イルカさん、こんにちわ」
会場に入ってカカシと別れて、親族席に腰を下ろした。
『マリナの姉ちゃんは俺にとって姉ちゃんでもあり母ちゃんみたいな存在だから。だから俺の結婚式に、母親として出てくんねぇかな』
ついこの間、すこしだけ赤くしたほっぺを指で掻きながら、照れくさそうにそう言ってくれたナルトに笑って頷いた。そんな風に思ってくれてることは素直に嬉しかったから、帰ってからちょっとだけ泣いちゃったっけ。
私の前に座ってそわそわしてるイルカさんも、きっとナルトに頼まれたんだろう。彼は今のナルトっていう人間を語るには、なくてはならない人だから。
「イルカさんも、ナルトに頼まれたんですか?」
「えぇ。…ということは、マリナさんも?」
「そうなんです。俺の母親として結婚式に出てほしいって言われて」
「俺もです。あ、と言っても俺は父親として、ですが」
「わかってますよ」
そう言って肩をすくめて頭を掻くイルカさんにくすりと笑った。
昔に、ナルトからイルカさんのことは聞いた。里のみんなに嫌われてる自分を、それでも認めて守ってくれた大切な人だって。もしかしたら私とイルカさんは、どこか似てるのかもしれないなあ。
「イルカさん」
「はい?」
「ナルトを“ナルト”として見てくれて、支えてくれて、ありがとうございます」
「!」
深く、深く、頭を下げる。
彼が認めてくれてなければ、きっと今のナルトはいない。彼が身を挺して守ってくれたから、今のナルトがいるんだから。
「そ、そんな!マリナさん頭を上げてください!」
慌てふためいてそう言うイルカさんにゆっくりと頭を上げると、彼はふーっと息を吐いて、こう言葉を紡いだ。
「…ナルトから、マリナさんの話は何度も聞いていました。初めて自分を認めてくれて、友達だと言ってくれたのがあなただと」
「…」
「マリナさんといると、自然と笑顔になるんだってあいつ言ってましたよ。“俺に母ちゃんや姉ちゃんがいたら、あんな感じなのかな”…ってね」
「…っ」
「俺は教師のくせに、最初はあいつのことを“九尾”としてしか見られなかった。…実は、両親があの事件で亡くなったんです」
「!」
「俺から両親を奪った九尾があいつの中にいるというだけで、腹が立って悔しくて仕方なかった。憎むべき対象として見ていました。あいつは好きで人柱力になったんじゃないのに」
「…」
「でも、何度もあいつと接していくうちに、あいつが俺と同じだということがわかったんです」
「?」
「…親からの愛情をあまり受けられず、寂しくて、悲しい思いをしていると」
「!」
「だから俺の方こそ、ナルトのことをちゃんと見てくれて、わかってくれて、ありがとうございます」
そう言いながら、やっぱり深々と頭を下げるイルカさんに思わずうるっとしてしまった。
イルカさんも、ナルトに対しての想いが深いとは思っていたけど、まさかそんな葛藤があったなんて。ご両親を殺した九尾が中にいるとわかっても、それでもナルトのことを大切にしてくれる、そんなイルカさんを、私は強いと思った。
「…イルカさんは、強いですね」
「そんなことはありません!マリナさんこそ…」
「いえいえ、私なんてそんな」
「俺なんかよりもずっとお強いじゃありませんか!」
「…なんか、終わりそうにないですよね、このやりとり」
「…そうですね」
そんなことを言いながらイルカさんと顔を見合わせて笑っていれば、式場の照明が徐々に落とされていく。するとシンプルな管楽器の音楽が流れて、みんなの視線はスポットライトを浴びた中央の大扉に移る。
ぎぎっという音とともに、その大扉はゆっくりと開いた。
その向こうには、着慣れない羽織袴ですこしだけ緊張したような顔のナルトと、その隣で慎ましやかに目を伏せる、綺麗な白無垢を身にまとうヒナタちゃんがいた。
「…ナルト、」
そんな二人の門出の幸せな姿を見て、自然と頬を伝うのは一筋の涙。
心の底から、よかったね。そんな思いで胸がいっぱいになって、同時に優しくて嬉しくて温かい気持ちで胸がいっぱいになる。
涙を拭ってふとイルカさんに目を向ければ、今にも溢れそうなほどの涙を溜めて天井を睨みつけていて思わず笑った。