05




マリナさんと最後に会ったあの日から、九年が経った。
俺はアカデミーを卒業し、下忍から中忍になり、そして上忍として初めて就いた任務で、俺の判断ミスで、オビトが死んだ。負傷した俺が気づけなかった降り注ぐ岩から俺を庇って、俺の代わりに、死んだ。そのオビトを追うように、それから数ヵ月後に雲隠れの策略にはまり、リンも死んだ。

どちらも俺のせいだ。大切な仲間を、俺が死なせた。師であるミナト先生は自分を責めているけれど、先生はどちらにも居合わせていなかったから何も悪くない。

悪いのは、俺一人だ。


「四代目、お願いがあります」
「ん、どうしたんだい、カカシ」


だから、俺は、もっと自分を追い込まなければならない。これ以上、大切な人を失わないように。これ以上、悲しい思いをしなくて済むように。強くならなきゃいけない。


「俺を、──」
「!」









「今日から新人が入ることになった」


招集がかかってやってきた暗部棟での、開口一番の隊長のそんな言葉にまたかと密かに息を吐いた。

暗部に入ってずいぶん経ち、暗部の本当の意味を知った。
私が入隊してから何人もの優秀な忍が入隊し、そして除隊していった。誰しもが暗部の血生臭い任務に心を病み、または一生消えない傷を負い、去っていく。里を影から守る部隊。影に潜むからこそこういう実態は明るみに出ない。暗部で生き残るためには己を隠し、また己を殺さないといけない。実力があっても、己を捨てられない者はここを去っていく。

きっと、今日入ってくる新人もそういう類の人間だろう。


「入れ」
「…失礼します」
「!!」


隊長のそんな声がしてがちゃりと開かれた扉の向こうには、もう見ることはないと思っていた銀色があった。


「今日からこの“ろ班”に配属されることになったはたけカカシだ。まだ幼いが実力は四代目様も一目置いている。皆カカシに暗部のいろはを叩き込んでやってくれ」
「…よろしくお願いします」
「…っ」


まだ小さい体に似合わないその装束と面は、私の心臓をうるさく鳴らせた。
なんでカカシがここにいるの。なんで暗部になるの。なんで、なんで…。


「おい、どこへ行く」
「……風に当たってきます」


思いもよらないその姿に、波打ち騒ぎたった心を落ち着かせようと暗部棟から瞬身で飛び出した。
そしてたどり着いたのは、九年ぶりに訪れる、師の墓の前。

ふーっと深く息を吐いて、面を外した。
なんでよりにもよって私の班になるんだろう。きっと四代目…いや、ミナトさんの差し金だろうなぁ。

暗部は火影直轄の部隊。三代目から代替わりしてその火影は今ミナトさんだからだと思った。彼は私より少し歳上だけど、正規部隊時代は仲良くしてもらっていたから、私がサクモ先生の弟子であることも知っているし、私とカカシのこともきっと知っている。


「…大きくなってたなぁ」


九年前のあの日以来、カカシの姿を追うのをやめてから、話でしか聞いてはいなかった。オビトくんとリンちゃんとミナトさんの班に配属されたこと、サクモ先生譲りの才能でとんとん拍子に上忍にまでなったこと、そして班員の二人が亡くなってしまったことも。

あの日から時間が止まってしまったように感じていたのは、どうやら私だけだったらしい。


「なんでまた逃げるの」
「!」


そんな声にぴくりと肩を震わせて、はぁと息を吐いた。


「…気配、消すのうまくなったね」
「マリナさんに置いてかれないように俺だって必死で頑張ったんだよ。マリナさんの隣に立てるように、一緒に戦えるように」
「…」


そう言ったカカシは黙って私の隣に立った。最後に会った時は目線が下だったのに、今ではもう、同じくらい。


「マリナさんと会えなかった九年間で、いろいろあったんだ、俺」
「…そう」
「下忍から上忍にまでなって、やっとマリナさんや父さんに近づけたと思ったんだ。同じ階級になったから、これでやっと、二人の背中がちょっとだけ見えた気がした」
「…」
「…でも、それは違った」
「!」
「…オビトとリンを死なせて、俺だけがのうのうと生き残った」
「…っ」
「だから、俺は強くならなきゃいけないと思った。あいつらが生きられなかった命の分、俺が精一杯頑張って、努力して、戦っていかなきゃいけないと思った」
「…」
「だから、ミナト先生に頼んで、マリナさんのいる班に入れてもらった。マリナさんの近くで、もっといろいろ学ぶために。もっと、強くなるために……っ!?」


寡黙なはずだったカカシがあまりに饒舌で、それを聞いているのがつらくて、思わず抱きしめていた。

きっと、弱音を吐ける人がいなかったんだろう。だからずっと心の中に閉まっていた弱音や葛藤なんかの気持ちが、私がいることでぽろぽろと落ちていってるんだよね。

いいんだよ、我慢しないでも。カカシは充分頑張ってる。だから、我慢しないで、甘えていいんだよ。


「…あんたはよくわからない人だ」
「?」
「突き放したかと思えば、こうやって俺のことを甘やかす」
「…」
「……でも、」


「ずっとこうしてほしかった」




俺は、私は、強くなる
fin.
BACK |

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -