04




マリナさんが降り立ったのは、きしくも父さんの墓の前だった。
評判のあまり良くない最期なだけに、上層部により共同墓地には入る許可はでなかった。けれど三代目様に懇願して、誰にも知られていないここに石を置いて父さんの墓にした。

マリナさんがここに来た。
きっと、俺から逃げるうちに、無意識に。

ようやく整った息を深く吸って、目の前の小さな、弱り切ったような背中に、切り出した。


「なんで、俺と会ってくれないの」
「…」
「なんで、勝手に姿消すの」
「…」
「俺、マリナさんに何かした?」
「…」


何度問いかけても、目の前の背中が動くことはない。そんなマリナさんの視線の先にあるのは父さんの墓。それだけ。一体今、マリナさんが何を考えているのか、俺には全くわからない。


「……ごめん、カカシ」
「!」
「いろいろ、ごめん」
「……なんで、謝るの」


ぽつりと小さくそう呟いたマリナさんは、何に対して謝っているんだろう。
俺の前から姿を消したこと?ずっと避けていたこと?今日俺から逃げたこと?黙って暗部に入ったこと?

父さんがいた頃のマリナさんは、何をするにもわかりやすい人だった。楽しいのも、嬉しいのも、怒っているのも、悲しんでいるのも。喜怒哀楽の表現がはっきりとした、そんな人だった。

なのに、今は、なんにも分からない。
分からせて、くれない。


「……カカシは、何も悪くない。私が一方的に、カカシに会えないと思った」
「…っ!」
「どんな顔して、カカシにも、サクモ先生にも、会えばいいのかわからなかった。だから三代目様に頼み込んで、暗部に入れてもらった」
「…」
「もっと強くなれるように。いつかこの里のみんなにわからせるために。…カカシに、会わないように」
「なん、で…」


俺がそうこぼすと、やっと振り返ったマリナさんは、おもむろに面を外した。

久しぶりに、マリナさんと、顔を突き合わせる。あえて無表情を作っているその顔からは、やっぱり何もわからない。


「サクモ先生が最後に出たあの任務に、私も就いてた」
「!?」
「中隊で、雲忍との戦闘だった。先生の主属性は雷遁。雷同士の戦いは、劣勢にならざるを得なかった。先生と並ぶくらいの雷使いに、上位とされる隊の風遁使いは手も足も出なかった」
「…」
「仲間もどんどん倒れて行って、立ってたのはぼろぼろの私と先生だけだった。そこで隊長だった先生は、ある二択を迫られた」
「…」


じっと見つめる視界の端で、マリナさんはぎゅっと拳を握った。


「掟を守って任務をやり遂げることか、仲間の命か」
「…っ」
「先生は迷わず、みんなに撤退令を下した。任務はやり直せるけど、死んだ仲間は帰ってこないって」
「…」
「隊のみんなもそれに賛成して帰還した。でもそのせいで火の国に大損害があって、先生の意見に同意したはずの隊員達でさえ、先生を攻め立てた。まるで先生一人が悪いみたいに、先生一人が、決めたみたいに」
「…っ」
「私だってあんなのおかしいって言って回ったよ。上層部にも、隊員にも。でも……」
「…」
「…でも私は、先生を守れなかった。だから私が、先生を殺したようなものなの」
「っそれは違うでしょ!」
「ううん、違わない。私は最後まで先生を信じたし、今でも先生のしたことは間違ってなかったと思ってる。……でも、」


「先生は、死んだ」
そう言ったマリナさんの顔が、ついに歪んだ。


「尊敬する大好きなサクモ先生を、カカシの、たった一人の家族を、守れなかった」
「…っ」
「…無力だと思った。非力だと思った。私はまだ、弱いと思った」
「…」
「だから、強くなるために暗部に入った。先生のしたことは間違ってないんだって、知らしめられるくらいの力と地位を得るために。…カカシに、会わないように」
「……っ、そんなの、」


「あんまりだよ」
ここまで話しても泣かないマリナさんの代わりのように、俺の頬を絶え間なく涙が伝う。

なんでマリナさんは、一人で背負うの?
なんでマリナさんは、俺に頼ってくれないの?
俺はあなたを、もう一人の家族のように思っているのに。



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