03




次の日、アカデミーに行くと、そこには友達と談笑するリンの姿があった。てくてくとそこまで歩いていき、「ちょっといい?」と声をかけると、気持ち顔を赤らめたリンがうん、と頷いた。


「あの、その…」
「どうしたの?」
「……昨日はありがとう」


あんな姿を見られた気恥しさから視線を下げたまま早口にそう言えば、リンは「なんのこと?」と首をかしげた。


「え?昨日、演習場に来たでしょ?」
「…私、昨日は行ってないよ?」
「……え」
「誰かと勘違いしてるんじゃない?」


そう言ってリンは寂しそうに笑って、友達の輪の中へと戻って行くその背中を眺めながら、俺は戸惑った。

じゃあ昨日、俺を抱きしめて、優しい言葉をかけてくれたのは、誰だ?

そう考えたところで、残念ながら俺の答えはひとつしかない。
考えるより先に体が動いた。全速力で、里中を走り回ったけれど、その答えの先にいる人物は、やはりいなかった。


「なんで、わざわざ変化するんだよ…──マリナさん」


俺に会いたいなら、そのまま来てくれればいいのに。
俺が心配なら、真正面から会いに来てくれればいいのに。


「なんで…俺に会ってくれないんだよ……」


ぐっと拳を握って俯いた。
そんな時、ふと背中に視線が刺さった。気配は感じないのに視線だけ感じる。ぱっとその方向に振り向くと、ぱたりと消える。実は、ここ一ヶ月、よくこの視線を感じる。でも俺が視線を向けると、今日みたいにぱたりと途絶えるその視線。

一か月前……まさか…!


さっき視線を感じたところに覚えたばかりの瞬身の術を使う。けれどそこに目的の人はいない。でもいた形跡はある。俺の仮説は確信に変わった。


「……なんで逃げるんだよ」


そう呟いた時、かさりと背後の茂みが揺れた。反射的にぱっと振り向くと同時に、そこから人が飛び出ていった。

背格好、髪型。間違いない。


「っ待って!!」


俺なんかでは追いつけないとわかっていても、体が勝手に追っていく。ぐいぐいと離されていく距離。逃がしてなるものかと必死で食らいつく。

商店街、民家の屋根、アカデミーの屋上。
走っても走っても、あの背中との距離が縮まることはない。でも、あの格好って……。


すとん、と前に見えた背中が地面に降り立った。やっと追いついた俺は、ゼェゼェと息を吐きながら、その背中をやっと、間近に見つめる。


「なんで、逃げるの…」
「…」
「なんで、暗部の服着てるの…」
「…」
「ねぇ……マリナさん」
「…っ」



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