「シカマル先輩!」
今日の任務の報告を終えて気だるい体をだましながら火影邸の廊下を歩いてたら、その前を私より気だるそうに歩いてる背中を見つけて考えるより先に飛び付けば、「うおっ」って言いながらちゃんと受け止めてくれる優しい先輩。
「…お前なぁ。いきなり飛びつくなっつってんだろめんどくせぇ」
「だって先輩の背中見えたから」
「理由になってねぇっつの」
今私がくっついている背中は、近いようで遠い、そんな背中。
後輩の私にしてみれば、やっぱりいつかは追いつきたいその背中。
いつも私の何歩も前を歩くシカマル先輩は、そう簡単には追いつかせてくれないらしい。「めんどくせぇ」なんて言いながらも、誰よりも里想いで、そして仲間想いな人だから。
「つーか離れろ。あちーんだけど」
「やです」
「…あのなぁ、」
ため息をつく姿まで格好いいなんて罪な男だ、この人は。
いつか先輩の背中に追いついたとき、伝えようと思ってるこの気持ち。伝えられる日は来るのか?なんて気が遠くなる。
「そういやお前、明日の任務聞いたか?」
「?や、まだですけど」
「明日は俺とツーマンセルだからよ。よろしくな」
「!」
久しぶりのシカマル先輩との任務。しかもツーマンセル。
驚きすぎた私は先輩の背中からずるずると下りた。
「…マリナ?」
「…」
「おーい」
「…」
「聞いてんのかー?」
「…」
「返事くらいしろバカ」
「いてっ」
どうやら嬉しさのあまり意識がぶっ飛んでたらしい。
先輩に叩かれた頭の痛みで戻ってきたようだ。
「何考えてたんだよ」
「…」
「あんたのことだよ」なんて言えるわけないし。苦笑いで言葉を濁すしか今の私にはできない。
「…べ、別に」
「そうかよ」
そう言いながら頭の上で手を組み、再び私に背中を向ける先輩に気づかれないようにふっと息を吐いた。
先輩と出会ったのは今から六年前。
アカデミーを卒業して下忍になったときに、幼なじみのいのちゃんに紹介してもらったのがシカマル先輩。その当時先輩はもう中忍で、任務から雑務までいろいろこなすオールラウンダーだった。会えばぶっきらぼうなりに声をかけてくれて、好きになるのにそう時間はかからなかった。
そして先輩に片想いをして早六年。
気づけばもう私は中忍で、先輩は上忍。やっと一歩近づいたと思えばもう数歩先にいるそんな先輩。どんなに任務に行って、どんなにがむしゃらに修行しても追いつけなくて。何度も折れそうになった心を繋ぎ止めたのは、それでも変わらない先輩への気持ちだけ。
「せんぱーい!明日、よろしくお願いしまーす!」
また遠くなった背中にそう叫べば、返事の代わりに上がった右手。
ずっと変わらないそんな姿に、微かに頬が緩んだ。