「マリナ、もうしんどいでしょ?おんぶしようか?」
「…へい、き…っ!」
マリナを想い、支え続けようとしたカカシ。
カカシを想い、別れを告げようとしたマリナ。
交差して離れようとしていた二人の気持ちが再び一つになり、八年が過ぎようとしている。
互いに互いを支え合い、訪れた窮地を二人で乗り越え、マリナはどうにか一人で歩けるようになった。
とはいえ日常生活にぎりぎり支障をきたさない程度のため、リハビリも兼ねて二人はよく散歩に出かけた。互いの手をしっかり握り、幸せをかみしめるように。
しかし忍の者は、幼いころからのくせで無意識にチャクラに頼っていた。
経絡系を切断されたマリナはその支えがない上に、八年が経ったとはいえ未だ筋力も衰えているため、昔より格段に疲れやすい。そんな彼女をカカシはそばで支え、見守り続けた。
「あと少しだよ、あと少しで着くから。がんばれ、マリナ」
「うん…っ」
額に玉のような汗を浮かべながら、自分の足で歩ける喜びに浸るように必死で足を動かすマリナの手を引き、カカシは優しく笑った。
一緒にいられてよかった。
一緒に生きられてよかった。
一緒に人生を歩めて、幸せだ。
マリナに別れを告げられ絶望に浸りながらも、生きてさえいれば必ずどこかに希望はあると。そう信じ続けたカカシに、自分を一番そばで支え、励まし続けてくれたカカシに、マリナは何度感謝してもし足りないほどの恩を感じていた。
もうカカシの隣で戦えないけど、それでも私は、カカシを守りたい。
忍としての私じゃなく、たった一人の、カカシのことが大好きな私として。
「ついた…!!」
「よく頑張ったね」
「つかれたよ…」
「お疲れさん」
目的の場所に到着し、マリナは設置されているベンチにどかりと腰を下ろした。
そんなマリナの額に光る汗をポケットから出したハンカチで拭い、その前にゆっくりと跪くカカシに、マリナはぽかん、とした視線を向ける。
「マリナ」
「…ん?」
「ずっと諦めないでくれてありがとう」
「!」
「つらいことも諦めたくなることもあったけど、ずっと頑張ってくれてありがとう」
「…っ」
「…俺と家族になってくれて、本当にありがとう」
「カカシ…っ」
跪きながらきらりと光る自分の指に愛おし気に唇を落とすカカシに、マリナは言いようのない感動を覚えた。
カカシがいなければ、頑張れなかった。
カカシがいなければ、私はもう、きっと生きていない。
肌身離さずつけ続けて八年が経って、少し古びてしまったカカシからもらった結婚指輪。
心が折れそうになったとき、やめたくて仕方がなくなった時に、何度も勇気をくれたのは、この指輪。
「…私の方こそ、何回ありがとうって言っても足りないよ」
「…マリナ、」
「カカシがいたから頑張れた。カカシがいたから生きなきゃって思えた」
「…っ」
「だから、ありがとう。カカシ」
愛してるよ
恥ずかしくて、今まで一度も口に出したことがなかったその言葉が、不思議とこぼれ落ちた。
そんなマリナの言葉にぱぁっと花が咲くように笑ったカカシは、ぎゅっときつくマリナを抱き締める。
そして、負けじと自分も呟いた。
――俺の方が、愛してる
きらりと光る、ありがとうをきみに
fin.