05






「…今日の報告はこれで終わりです」


いつもと変わらない報告。だけどなんだかここにいたくなくて、うつむいていつもより早口にすませてるあたしがいて。その理由はわかってる。いつもは書類に目を通したまま顔を上げないカカシ先生が、今日はじっとあたしを見てる視線を感じるから。


「マリナ」
「…っ、それじゃああたしはこれで、」
「待って」


急ぎ足で執務室を出ようとしたら机を飛び越えてきた先生に腕を掴まれた。
ダメだよ先生。そんなことしたらせっかく決意できたのに揺らいじゃうじゃん。

ダメだよ、やめてよ先生。


「…人来ますから。見つかりますよ」
「…」
「手、離してもらえませんか…」


先生から離れようと身をよじってみても、より強く掴まれて離れない。
その間ずっとあたしはうつむいてるけどやっぱり先生の強い視線を感じる。


「なんで昨日家にいなかったの」
「…人来るから」
「ねぇマリナ」
「…バレちゃうから、だめだって」


聞いちゃダメだ。聞いちゃったら絶対流される。聞くなあたし。


「答えてよ」
「…っ」
「…俺のこと、嫌いになった?」
「!」


弱弱しい声が聞こえて思わずぱっと顔を上げれば、数週間ぶりに見た先生の顔がなんだかとてつもなく情けなくて。下げられるだけ眉を下げて、やっぱり弱弱しい視線であたしのことを見てた。なんで、なんで先生がそんな苦しそうな顔するの?あたしは先生に心配かけたくないからなるべく見せないように見せないようにってずっと我慢してきたのに。なんで…。

そう思っちゃったら、我慢が出来なくなった。


「…嫌いなわけないじゃん。先生のこと、嫌いになれるわけない」
「じゃあなんで昨日…」
「先生は忙しいってわかってるよ。家に帰れてないのも知ってる。だけどあたし、もう限界なんだよ。誰にも先生と付き合ってるって言えないし、毎日会ってるのに目も合わないし。もう、なんのために先生と付き合ってるのかわかんない」
「…」
「あたしずっと我慢してきた。カカシ先生のことが好きだから、みんなに秘密にするってことも毎日一緒にいられないってことも、ずっとずっと我慢してきた。先生はいろんなものを背負ってるから、あたしのことまで背負わせないようにってずっとずっと耐えてきた」
「…マリナ」
「でも本当はみんなに言いたかったんだ、あたし。カカシ先生と付き合ってるんだって、ずっとずっと言いたかった。みんなに先生のことを自慢したかった、それに先生が背負ってるものをほんのちょっとでもあたしに分けてほしかった」
「…」
「だけど先生はあたしの顔も見てくれないじゃん。もう、あたしじゃダメなんだよ。こんなあたしじゃ、ずっとひとりで頑張ってきた先生を支えるなんて、できない」


気付いたらぽろぽろと涙がこぼれてきて、ごしごしと掴まれてないほうの手でそれを拭った。
こんなことで泣いちゃうような子供のあたしじゃ、先生と一緒にはいられない。もっと大人で、先生の全部を包み込めるような人がいいんだ。あたしじゃ、ダメなんだ。


「…もういいよ、先生。今まであたしのわがままに付き合ってくれてありがとう。先生は幸せになってね」
「!」


先生を解放してあげないと。こんな子供のあたしのわがままに付き合ってくれるような優しい先生を。

あたしの大好きな、カカシ先生を。


「カカシ先生。今までありがとう」
「…マリナ、」
「…さようなら」


最後だと思ってとびきりの笑顔を作ってそういえば、あたしの腕を掴んでた先生の手が緩んだ隙に執務室を飛び出した。



BACK | NEXT

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -