04






「遅いなあ」


部屋の隅々までぴっかぴかにして、サンマはあとは焼くだけで茄子のお味噌汁も準備オーケー。ご飯も炊けたしあとは数品小鉢もできてる。はりきって早く作りすぎちゃったか、と思ってたまってた洗濯物も干し終えてそれからさらに数時間。

もうすぐ日付が変わる。


「…ハァ」


しかたないよ。火影様に定時はないじゃん。
今日は何時には帰れるよ、だから家で待っててほしいそう言われて帰ってこない日なんて今まで多々あった。今日だってその一日に過ぎないわけで。

このままここにいて、先生が帰ってきたときにあたしが待ってたらなんか責めてるみたいにならないかな。こんなに待ってたのに、ご飯も作ってたのに、って。そしたら先生は優しいからごめんね、ってただでさえ疲れてるのにあたしにまで気を使わなくちゃいけなくなる。そんなことはダメなんだ。それじゃ、ダメなんだよ。


小鉢にラップをして冷蔵庫にしまう。このまま置いておいたらそれこそ責めてるみたいになっちゃう。あとはそのままにして先生の家を出た。がちゃりと施錠した鍵はそのままポストにいれた。

これで、あたしと先生を繋ぐものはなくなった。


「…今日こそは、一緒にいられると思ったのにな」


すっかり寒くなった夜の街を歩きながら独り言ちる。
いつもいつも、不安になったころに声をかけてくれる先生に喜んで。みんなに秘密で付き合ってるってこともあたしと先生の二人だけが知ってることだって喜んで。ちょっとしたことでも先生と一緒だってことがたまらなく嬉しくて浮かれて。

でもやっぱり、そろそろ限界なんだ。
先生の家の鍵をポストに入れた時、もうこれで先生の家には来れないんだと思ったらなんだか泣きそうになった。たったひとつの、先生との目に見える繋がりも自分からなくしちゃったわけで。もうあの家に行くことはない。あの家で先生の代わりに掃除をすることも、洗濯をすることもご飯を作ることも先生を待つことも、ない。


「…もう、いいや」


あたしが離れれば、先生も無駄なことに神経を使わないですむ。気もつかわないですむし、余計な苦労はかけたくない。あたしは先生が大好きだから。きっとこれからも先生以上に好きな人には出会えないと思うから。

本当のことを言えば、先生にいろんなところから縁談が来てるって知ってる。そして先生がそれをうやむやにして断り続けてるのも。それはきっと、曲がりなりにもあたしっていう恋人がいるからだと思う。あたしとの関係を隠したまま上層部に言われるまま結婚することは、優しい先生にはきっとできないことなんだろう。

でも、それじゃいけないんだ。先生は幸せにならなきゃいけない。今まで先生はたくさんたくさん辛くて苦しくて悲しい思いをひとりで背負ってきた人だから。先生はずっとひとりで、ただひたすらに里を、仲間を守ってきた人だから。

先生は絶対、幸せにならなきゃいけないんだよ。


「…先生、」


あたしは先生を支えられないし幸せにはできないみたいです。
きっと明日には先生に言うから。きっと、言えるようにするから。だから、


「カカシ先生…っ」



今だけ、泣いてもいいですか?




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