「ぐあっ！」
「…っ」
愛刀に風のチャクラを流して、敵忍の首を掻き切る。
踏み込むたびに突き刺すように左足が痛む。だけど、さすがのカエデさんもこの数を前には余裕ではいられないみたいでこれ以上心配はかけられない。
「女二人で俺たちに盾突くたぁいい度胸じゃねぇか」
「…っ」
「だが、それもここまでだ」
「！…カエデさんっ！！」
「…マリナ、ちゃん」
さっきとは見違えるようにぼろぼろになったカエデさんは、敵忍に捕らえられていた。ご丁寧に首筋にクナイがあるその姿を見てぷちん、と切れるのは私の理性。
「…その人を離せ」
「あぁ？何言ってんのか聞こえねぇな」
「カエデさんを離せっつってんだよこのクソ抜け忍」
「あぁん！？てめぇぶっ殺されてぇのか！！」
「お前らみたいなクソ野郎にぶっ殺されるほど落ちぶれちゃいないんだよ」
「っこのアマ！構わねぇ！やっちまえ！！」
ふらりと立ち上がって、私を囲む奴らをぎろりと睨みつける。
私のどこにこんな力があったんだってくらい、あふれ出る殺気が止まらない。目の前のこいつらを殺してやりたい。
「…どうした？こないのか？」
「…っ」
ごくり、と敵忍の一人が息をのむのがわかった。
この程度のやつら、瞬殺できる。
ゆっくりと愛刀に手をかけ、構えをとった。
「…風遁、」
「！」
「
「ぐわぁっ！！」
円を描くように愛刀を振れば、風のチャクラが吹き荒れてものの見事に全員地面に突っ伏した。
残るは、カエデさんを捕らえている男一人。
左足を引きずって距離を詰めながら、愛刀から手を離した。
手から離れた愛刀は、かちゃんと音を立てて転がる。
「マリナ、ちゃん…？」
「…頼むよ、カエデさんを離してくれ」
「何言ってんだてめぇ！」
「人質なら私でもいいだろ、頼むからカエデさんを離して」
「ダメよマリナちゃん！」
「いいえ、あなたはダメなんですよ。カカシさんはあなたのことを大切に想ってる。カカシさんにはきっとあなたがいないとダメなんです。…私じゃ、ダメなんです」
「！」
自嘲にも似た、つぶやきがこぼれた。
そうなんだよなぁ。カカシさんが選んだのは、カエデさん。
綺麗で聡明で、優しさも思いやりも温かさも兼ね備えた完璧な女性。私みたいにひん曲がった性格はもちろんしてなくて、私みたいに弱くもない。
私はカカシさんが大好きだ。だからこそ、カカシさんの大切なものを私だって守りたい。
ああ、こういうことなんだ。“好きな人の幸せは、自分の幸せ”って。今ならわかる気がする。カカシさんが大切にしているものを私も守りたい。カカシさんが幸せでいられることが、私の幸せだ。
だから、なにがなんでもカエデさんを守る。
「…なぁ、後生の頼みだ。カエデさんを離してよ」
「マリナちゃん！」
「私のことは煮るなり焼くなり好きにしていいからさ。だから、カエデさんを離して」
「っうるせぇ！！」
「…っ」
「マリナちゃん！！」
カエデさんの首筋にあったクナイが私の腹に突き刺さる。
傷口からどくどくと流れるのは血。
カエデさんは隙が生まれた敵を一瞬で伸して私の元へ駆け寄ってきてくれる。でも、それを待ちきれないようにどんどん体は後ろに倒れていく。
ああ、私、ここで死ぬのかな。
でももういいかもなぁ。カエデさんを守れたなら、それでいいかも。
カカシさんの大切な、カエデさんを守れたんだから。
こんな瀬戸際に、少しの満足感から口角が上がるのがわかった。
きっともうすぐ地面に当たる。その衝撃に備えようと、そっと目を閉じた。
「――みんなで生きて帰るって、言ったでしょうよ」
「！」