「…ハァ…ハァ、っ」
やっとの思いでカエデさんの手も借りて、どうにか目の前の敵の殲滅には成功。
でもやっぱり曲者ばっかりで、当たり前だけど無傷ではいられなかった。数え切れない細かな切り傷と、顔にもクナイが掠った傷がある。一番ひどいのは左足の裂傷。私はやっぱり、まだまだ弱い。
同じように戦っていたはずのカエデさんは、さすが上忍、少し忍服が切れてるだけ。ところどころついている血は相手の返り血なのでカエデさん自身はほとんど無傷だ。
「マリナちゃん、傷見せて」
「…平気です」
「嘘おっしゃい!傷跡が残ったらどうするの!」
「…」
せめての強がりも、きっ、と睨まれたカエデさんの剣幕に押されて手当てをしてもらう。
戦闘スキルも高いのに、おまけに医療忍術までかじってらっしゃる。温かいチャクラを当てられながら、ゆっくりと確実に止まっていく流血にほっと息を吐く。
「そうだ。カカシに怪我のこと言わないと、」
「…言わないで」
「え?」
「……お願いです、カカシさんには、言わないで」
ぎゅっと、無線にかかるカエデさんの手を掴んだ。
今カカシさんは、一人で戦火の真っただ中にいる。私の怪我のことなんか聞いたら、優しいカカシさんは気が気じゃないはず。これは自惚れじゃなくて、仲間を大切に想うカカシさんをずっと見てきたからわかること。
「…だけど、マリナちゃん、」
「…手当てありがとうございます。行きましょう」
ゆっくりと、立ち上がる。
正直左足はまだずきずき痛むけど、そんなことを言ってる場合じゃない。跡が残ったっていい。ここでカカシさんをずっと一人で戦わせるくらいなら、私の足の傷跡なんて安いもんだ。
カカシさんはいつも言ってた。仲間を大切にしろ、失ってから後悔だけはするなって。カカシさんは今まで後悔ばかりの人生を送ってきたから、後輩である私に同じ思いはさせたくないって何度も言ってた。
私は、カカシさんの教えを守りたい。
ここでカカシさんを放ったまま私の傷の手当てをしていて、それでカカシさんに万が一のことがあったら私は一生立ち直れない。大好きな人だから、まだまだ弱い私だけど守りたいから。
「…わかったわ。だけどマリナちゃん、」
「…」
「あなたのことは、私に守らせて」
「!」
私の肩に腕を回して支えながら、優しく微笑んだカエデさん。
この人にはきっと、全部がお見通しなんだろうなぁ。傷がまだ痛むことも、きっと、私のカカシさんへの気持ちも。それでもこの人は、私を守ると言ってくれた。
ありがとう、カエデさん。
だけどそれはお断りします。
カカシさんが大切に想ってるカエデさんも、私が守る。