03




<いいか。俺が合図したら、まずはマリナが拠点に入る。そしてカエデも続いて、マリナのサポートだ>
「…了解」
「えぇ、わかったわ」


ぷつりと消える前に無線から聞こえたカカシさんの声に、もう一度深呼吸をした。

時刻は、丑の刻。
夜中も夜中で、目の前にある拠点からは物音ひとつしない。これが嵐の前の静けさじゃなきゃいいけど…と、さっきから収まらない悪寒と嫌な予感を振り切るように頭を振った。


「マリナちゃん」
「!はい」
「カカシも私も、マリナちゃんの剣技には全幅の信頼を置いているわ。あなたのその力が、私たちの希望であり、宝なの」
「…カエデさん」
「だけど、あんまり全てを一人で抱え込もうとしないでね。あなたの力を頼りにしてはいるけど、私たちはあなた自身のことも大切なんだから」
「…ありがとうございます」
「私はずっと、あなたの背中を守る。だから安心して、前だけを見て戦ってね」
「…はいっ!」


優しい女神のようなカエデさんの微笑みに、ずっと入りっぱなしだった力が抜けたような気がした。

ありがとう、カエデさん。あなたのことは、私が守ります。


それから少しして、目の前の拠点から爆発音が響いた。
カカシさんからの合図。
カエデさんと一度目を合わせて頷き合ってから、混乱に紛れるように窓を割って拠点に侵入した。









「なんだ!敵襲か!?」
「木ノ葉だ!木ノ葉にここがバレた!!」
「木ノ葉だと!?」


敵忍二名が慌てふためきおののく様子を、忍び込んだ空部屋で息をひそめながら伺う。

おそらくこの二名は、この様子からして下っ端だろう。ここでさっと仕留めておくのがいいだろうと、そっと音を立てないように背後に回り込み同じくそっと抜いた愛刀で急所を斬る。


「ぐわっ!」
「…」


いくらこいつらが敵忍で火の国を襲ったやつらとはいえ、人の命の灯を消すというのは気分がいいものではない。今まで何度経験しても、慣れることはない。いや、慣れちゃいけないとも思う。人の命を奪う行為に慣れるもくそもない。


「マリナちゃん」
「!」
「落ち着いて、しっかり息をして」
「…っ」


優しく肩に手を置いてくれたカエデさんの言葉で、思い出したように止まっていた息をした。

ダメだ、私はまだ弱い。こんなことぐらいで我を失ってるようじゃ、カエデさんを守れない。カカシさんの隣でなんて、戦えない。


「…気づかれたようね」
「!…えぇ、そうみたいですね」


少し離れたところから、十数人の気配がこちらへ向かってくる。途端にばくばく、と心臓がうるさくなった。

落ち着け、落ち着くんだ。なんのためにずっと修行してきたんだ。カカシさんの隣で戦うためだろ。大切な人を守るためだろ。こんなところで怖気づいてるような奴に、カカシさんの隣で戦う資格はない。あの大きな、大好きな背中に、追いつけるわけがない。


「…行きましょう、カエデさん」
「!…えぇ」


ぎゅっと刀を握りなおしてカエデさんに背を向ける。

あの毎日を思い出せ。しんどい思いをして得たことを思い出せ。あの人の隣に立てるような忍になるんだろ。あの人に背中を任せてもらえるような忍になるんだろ。

それなら、こんなところで立ち止まるな。
たとえ一歩でも、前に進め。


心の中でそう誓いながら、雄たけびを上げて襲い掛かってくる敵忍の中に飛び込んだ。





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