01




「あっ、カカシさ…っ!」


任務終わり。
疲れた体を引きずって夕飯は何にしようかな、もう食べて帰ろうかななんて思ってたら見つけた背中。声をかけようとして思わずためらったのは、その彼の隣には綺麗な女性がいたから。


「…っ」


お互いに幸せそうに笑い合う二人は、誰がどう見てもお似合いで。
カカシさんは言わずもがな里の誉れ。次期火影候補とも名高い木ノ葉きっての優秀な忍。でもただ強いってだけじゃなくて、優しさや思いやりも人一倍あって、仲間の窮地には身を呈して守りに出られる、そんな強さも持った人。…そして、私が思いを寄せる人でもあるわけで。

そんな彼が選んだ人は、私みたいになんの取り柄もない平凡な特別上忍なんかじゃなく、彼と同じ上忍で、彼と同じくらいの危険な任務に駆り出されることもある優秀な人。私も昔お世話になってたけど、彼女もまた、優しさや人を思う心を持った、笑顔の綺麗な強い人で。私なんかがカカシさんの隣に立つことなんてほぼ絶対あり得ないわけだ。


「…」


あの二人がそういう関係になって、もうどれくらい経ったかな。ずいぶん前にそんな噂を聞いた気がするのに、それでもまだ二人が一緒にいるところを目にすると、胸が苦しくなって泣きたくなる。


夕飯を食べる気も失せて、黙って踵を返し家路につく。
私なんかただの護衛任務でこんなにぼろぼろなのに、もっと高ランクの戦闘任務を捌いてきたであろうあの二人は塵ひとつ付いてなかった。

これが実力の差。上忍と、特別上忍の違い。

カカシさんを好きになってからは、彼に似合う人になれるようにって必死に毎日修行してきた。雨の降る日も雪の降る日も、気温が人の体温を超えるような猛暑日も。彼に追いつきたい、その一心で来る日も来る日も修行をした。
おかげで私は今の階級になれたわけで。

だけど、昇格が決まって、嬉しくてすぐにでもカカシさんに知ってほしくて言いに行こうとしたら、聞こえてきたのがあの噂。


『カカシさんとカエデさんが付き合ってるらしい』


まさに、天国から地獄。
昇格を報告するのと一緒にあわよくば告白までしようかと舞い上がっていた私の気持ちは一気に地に落ちた。でもよく考えてみれば、たしかにあの二人がくっつくのはなんにも不思議には思わない。いつも仲良さそうに話したりとかもしてたし、優しいあの二人に交じってたまに私も一緒に話してた。その噂を聞いてからは私が一方的に二人を避けてるからそんなこともなくなったけど、それでも今思えば、あの二人が話している姿はどこからどうみても恋人同士、だった。

一方の私は、目の前に大好きなカカシさんがいるってことだけで頭がいっぱいになって、二人のそんな良い雰囲気を感じ取ることもなく、バカみたいに一緒に話してた。…本当にバカだ。救いようのない、バカ。


家に着いて、ぼふっとベッドにうつ伏せる。
考えないでおこうと思えば思うほど、私の脳裏に浮かんでくるのは、さっきの幸せそうに笑いあう二人の顔で。

意味は違うけど、あの二人のことはどっちも大好きだ。
カカシさんはもちろん恋として大好きだし、カエデさんは人として大好き。そんな大好きな二人が幸せそうにしてるのに、何をこんなに苦しむ必要があるんだ。

好きな人の幸せは、自分の幸せ。

いつだったかどこかの誰かがそんなことを言ったらしいけど、私にはどうしてもそうは思えない。できることならカカシさんの隣で笑うのは私でありたいし、カカシさんに笑いかけてもらうのは私でありたい。そう思っちゃうのは、私の我が儘かな…。

考えても答えの出ない堂々巡りに、汚い自分が嫌になって頭を掻きむしった。



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