02





「おはよう、マリナ。今日も良い天気だよ」


朝、いつものようにマリナの病室を訪れたカカシは、マリナにそう声をかけてから、閉め切ってあったカーテンを開ける。
窓の向こうに広がるのは、一面の青。雲ひとつない空に輝く太陽にカカシは目を細める。そんな彼を、うつろな瞳で見つめるマリナ。身体に巻かれていた包帯はおおかた取れたものの、未だその傷は、深い。


「今日は久しぶりに非番なんだ。だから一日そばにいられるよ」
「…」
「お、果物がいっぱいある。誰が持ってきたの?」
「…」
「ま、おそらく紅あたりだろうね。食べるでしょ?剥いてあげる」
「…」


ベッドの脇にあるパイプ椅子に腰かけたカカシは、機嫌よく鼻歌なども歌いながら、器用に林檎を剥いていく。
鼻に酸素吸入器を通したマリナは、ベッド上で上体を起こし、やはりうつろな、そしてどこか寂し気な目でカカシを見つめる。


「よし、できた。小さく切ったからこれなら食べられるんじゃない?」
「…」
「ほら、口開けて」
「……もういいよ、カカシ」
「…っ」


マリナに向け伸ばした腕を止めたカカシは、マリナの小さな拒絶に悲痛な表情を浮かべる。
そんなカカシに変わらずうつろな目を向けていたマリナは、視線を窓の外へと変えた。


「…な、んで、そんなこと言うの」
「私なんかのために、カカシが犠牲になることはないよ」
「…俺はしたくてしてるだけだから、」
「ううん、違う。こんなことになった私に同情してるんだよ」
「っ!」
「婚約者、だもんね。カカシは本当に優しいから、生きがいを失った私に同情してるの」
「…っ」


ぽつりぽつりとマリナから紡がれる言葉は、カカシの胸を深く抉るように突き刺さった。


「もういいよ、カカシ。私はもう忍には戻れないし、カカシを守れないから、だからもうそばにはいられない」
「…そうじゃないよ」
「じゃあなに?こんな体になったから他に貰い手なんかないだろって?だから仕方なく俺が見てやってるんだろって言いたいの?」
「っちがうよ…っ!」
「こんなになっちゃったら別れるに別れられないよね。こんな惨めな女を一人にできるほど、カカシは鬼じゃないもん」
「…マリナ、っ」
「…もう、来ないでくれないかな」
「!!」
「…カカシの顔を見てるだけで、昔のこととかいろいろ思い出して、つらいの」
「…っ」


マリナの明らかな拒絶に、カカシは息を詰めた。


あの日、昏睡状態で帰ってきたマリナを誰よりもそばで懸命に看病したのは、他でもないカカシだった。
眠ったままでは筋力も落ちるから、と、少しでも空いた時間はこの病室に訪れ日に日に細くなっていく腕や足を揉んでやり、意識のないマリナに毎日声をかけ、名を呼び、誰よりもマリナの意識が一刻も早く戻ることを祈ったのも、カカシ。


そんな期間が一月続き、任務後、綱手からの一報で飛ぶように病院へ向かったカカシの目に映ったのは、重そうに瞼を開け、うつろな目をした最愛の人。
細い息で自分を呼ぶマリナの身体に縋りつき、静かに涙を流し誰よりも回復を喜んだ。


そんなカカシを、マリナは明確に拒絶した。

悲しいような、やり切れないような、理解できないというような。
そんな表情を浮かべ視線を向けるカカシを感じ、マリナの頬には一筋の涙が伝った。


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