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「そんでさ、大好きだよ」


全部が終わってくたくたになって、先輩の顔が見えた瞬間に力が抜けて地面に寝転んだ。安心したような顔になった先輩も同じようにごろんと寝転ぶ。先輩はきっと私以上にくたくたのはず。そんな風に思ってなんだかやるせなくなった。


睡臥には心の底から腹が立った。
私を助けてくれた先輩たちをあんなにボロボロにして、それでもまだ笑ってて。長く忍としていろんなことを経験してきたつもりだけど、初めて心の底から人を殺してやりたいと思った。

そんなことを思い出しながら、ゆっくりと上半身を起こして空を見る。


「ねぇ、先輩」
「なに?」
「私ね、今回のことで思ったことがあるんです」


先輩に、私が思ったことを話そうと思った。他の人なら絶対に見せたがらないような醜いことも、情けないことも全部。

先輩になら、私のダメなところも全部話せるようなそんな気がしたから。


「私、さっき先輩にクナイが向かってたとき、本当に焦って。気づいたら自分でも出したことないぐらいのスピードでクナイを斬り落としてて」
「うん」
「先輩を死なせたくない、先輩を失いたくないってそんなことでいっぱいで」
「うん」
「先輩を守れたってわかった途端に睡臥に本当に本当にムカついて。初めて心の底から…こいつを殺してやりたい、って、思いました」


こんなことを話して、先輩は呆れてないかな。なんて女だって軽蔑したりしないかな。
大丈夫だって信じながらも不安になって先輩をちらっと見ると、ただ頷いて私のつたない話を聞いてくれてる。そんな様子にふーっと息を吐いて続けた。


「睡臥とやりあってるときも、殺せる隙はいっぱいあったんです。あいつも強がってたけど、幻術にかける余裕もないくらいボロボロで」
「うん」
「いつ殺そういつ殺そうって、そんなことでいっぱいになったときに、これでやれるって思ったときに…先輩の顔が浮かんで」


優しく笑って、私を呼んでくれる大好きな先輩の顔が。


「その途端にあぁ、なんてことを考えてたんだろうって。先輩がそんなこと許すわけないのに、私がそんなことしたら先輩は絶対悲しむのにって」
「うん」
「…私も先輩も、今までたくさんの命と関わってきたでしょ?」
「…あぁ」
「そんな、たくさんの人たちの命の上に立ってる私がなんてこと考えちゃったんだって、自分が…怖くなって」
「…うん」
「それで、それで…」


どんどん感情が溢れて言葉にならなくなった私を先輩は、力も入らないだろうに、でも力強く抱きしめてくれた、「もういいよ」って優しく背中を撫でてくれた。
そんな先輩の声と温かさに涙が溢れる。

やっぱり私は、この人がいないとダメだ。


「話してくれてありがとう。苦しかったね」
「…」
「たしかにお前も俺も、今までたくさんの命を手にかけたし、大切な仲間をたくさん失ってきた。だけどさ、」
「…」
「その人たちがいるから、今の俺たちがあるんだよ」


そんな先輩の優しい声が体中に染み渡る。返事をしようと思って声を出そうとしても出なくて必死で頷く。


「辛いことも多かったし悲しいことも多かったけど、でもその人たちが命を懸けて残された俺たちに教えてくれてるんだよ、俺はそう思ってる」
「教えて、くれてる?」
「そう。命の大切さとか、生きてる人には伝えきれないことをね」


背中を撫でてくれた先輩の手が、今度は頭に乗る。


「だから、俺たちは伝えていかなきゃいけないと思うんだ」
「…」
「これからも、俺たち忍には命の問題がついてまわる。きっとなくなってしまうこともあるだろう。それはマリナかもしれないし、俺かもしれない」
「…」
「だから、もしそうなってしまったときに伝えておけばよかったって後悔しないように、今を大切に生きていこう。これから未来を生きていく子供たちに生きることの素晴らしさを説いていこう。俺はそうしていきたいと思ってる」


「マリナはどう思う?」
そんな風に問いかけた先輩は、涙のあとでいっぱいになった私の頬を撫でる。それは壊れものを扱うように優しくて。


「…私も、そうしたい。伝えていきたい。だって、私は生きてるから」
「あぁ、お前も俺も生きてる。だから一緒に伝えていこう。これからも俺のそばにいてくれよ」


いつもより優しい瞳で、顔でにこっと笑った先輩に力いっぱい抱きついた。

私は、この笑顔をこの温かさを守りたい。何があっても私のそばにいてほしい。


「私の方こそ。先輩、これからもずっと一緒にいてください」


そう、心からの言葉を送った。


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