ゆるく危うい雲行き

「……眠すぎる」
「あ?昨日も寝てねぇのかよ」
「いや、寝たのは寝たんだけどさ。ほら、あれ」
「あれってなんだよ」
「昨日の夕方あの二人に捕まった」
「…あぁな。ご苦労なこって」


「まじ勘弁してほしいよ本当」そんな風にいつも以上にやる気なさそうに欠伸をかましてやがるミチルにお疲れさんと呟いた。まぁあの二人って言やァいのとサクラのことだろう。こいつにしちゃ珍しく夕方に上がれたってのに捕まっちまうとは運がねぇ。


「ほらミチルさん、早く仕事してください。この後も予定は詰まってるんですから」
「へいへい」
「ではこれより、連合暗部定期報告会を始めます。ではまず木ノ葉隠れのミチル様、お願いします」
「へーい」


サツキと進行役に続いてそんな言葉と一緒に立ち上がったミチルから出てくる言葉ってのは平和とは程遠いもんだ。
鉄の国で行われる月一度の連合会議のうち半年に一度召集されんのは五大国それぞれの暗部の総隊長。大戦が終わってしばらく経って表向きは平和に見えるこの世界も、影で動く暗部たちにしてみれば何も変わっちゃいねぇらしい。何度もミチルの口から出てくる暗殺や諜報、密偵なんつう穏やかじゃねぇ言葉。こいつは昔から暗部にいたからその言葉自体は何も思ってねぇかもしんねぇが、俺にとっちゃ惚れちまってる女からそんな言葉は聞きたくねぇわけで。
出来るだけ早く、本当の意味で平和な世界にしてぇな、なんて柄でもねぇことを思ったわけだ。


「ま、ざっとこんな感じかな。これでも終戦直後に比べたらずいぶん減ったし、どんどんいい方向に向かってんじゃないかってこの前砂の総隊長と話してたところで。ね?タスキのおっさん」
「あぁ。特に木ノ葉は、抜け忍だったうちはサスケを無限月読解術の功績を称え無罪放免としたからな、その分里内の反発も多かったと聞いている。この程度の混乱で済んでいるのは、ひとえに影から里を支える柱となっているミチルの日頃の研鑽の賜物と言えよう」


こいつが終戦直後、サスケのことで反発してきた忍たちを説得して回ってたのは知ってる。ナルトやサクラやカカシさんと一緒にいろんなところに頭下げて回ってたってのも聞いた。木ノ葉の鬼神と恐れられる暗部の総隊長に頭まで下げられちゃそいつらも納得せざるを得なくなったってとこだろう。まぁでも、こいつはそんなつもりじゃなくただ純粋にしてただけなんだろうけどよ。

んでもなんで七班でもねぇこいつがそんなことまですんだと思ってたら、“自分がカカシ兄や綱手姉に救われたように、今度は自分がサスケを助けたい”そう言ってたな。誰よりも仲間や里のことを想ってるこいつには本当に頭が上がらねぇ。


「そんなことないよ。実際サスケに助けられた人間は大勢いるし、それはみんなも知ってるじゃん」
「けどお前が反発してきた奴らに頭下げて回ってたからだろ。じゃねぇと今頃木ノ葉は、」
「そんなことないって、みんなあたしのこと買いかぶりすぎだよ。あたしなんてまだまだ」
「ははっ。お前ほどの忍でまだまだだったら、私たちなんてヒヨッコだな」
「…テマリまで」


らしくねぇ謙遜の言葉をテマリが笑い飛ばすとバツが悪そうに首を掻いてやがるミチル、そのやりとりに和む場の空気。

総隊長が来る会議は毎回空気がぴりついててやってらんねぇ。テマリもそれをわかっててわざミチルをからかったんだろう。ったく、俺の周りの女どもは優秀すぎてやってらんねぇっつーの。


「それでは次、砂の総隊長タスキ様お願いします」
「あぁ」


ミチルが席に着いたと同時にそう進行役がタスキさんに声をかけた。
見た目はただのイカツイおっさんであるタスキさんもミチルの理解者。さっきの発言もそうだが、気難しいってことで知られてるこの人でもミチルのことは一切否定しねぇ。綱手様曰く雷影とも肩を並べる実力を持つこの人に一目置かれてるミチルはいったいどんだけなんだっつの。まぁそれは俺が一番知ってるんだけどよ。


「砂からはこんなものだ。テマリ、何か補足はあるか」
「あぁ、ひとつだけ。最近よく報告にも上がってくる組織なんだが、十六夜という組織は知っているか」
「…いざよい?」
「あぁ。規模はさほど大きくないが、最近活発な動きが多いのが気になってな。耳にだけ留めておいてくれ」


そのあと岩、雷、水からも十六夜っつー言葉が聞こえてきた。こりゃただ事じゃすまなそうだな。ったくめんどくせぇ。
「ではこれにて、連合暗部定期報告会は終了です。お疲れ様でした」進行役のそんな言葉が聞こえればぞろぞろと会議室を出てく総隊長たち姿を見てため息をついた。
こりゃカカシさんにも報告しといたほうが良さそうか。つってもきっとあの人ならもう知ってんだろうけどよ。


「じゃ、シカお疲れ」
「あ?お前もう行くのかよ」
「あいにく予定が詰まっちゃっててねェ。本当はのんびり昼寝でもしてたいんだけど」
「そうかよ」
「そんじゃあね」
「…まぁ、あれだ」
「ん?」
「無理、すんなよな」
「どしたの急に。なんか変なもんでも食べた?」
「…うるせぇ」
「はは。でも、ありがとうシカマル」
「!」


「あんたも無理しないようにね」なんてにっ、と笑って片手を上げて去ってくバカ。
ったく、あいつがいると調子狂うっつーの。





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